<リオ五輪>20歳樋口の金を阻んだ“審判の笛の壁”
日本体育大学に進学して以降、高校時代に比べ目立った結果を残せず周囲はやきもきしたが、本人はいたって平常心だったという。 「なんとかなると思っていました。ケガをしたときも、同じようになんとかなると思っていた。最終的には自分が勝つんだと信じていたので」 ところが、準備不足のツケが回ってきた。世界選手権の代表選考を兼ねた全日本選抜で減量に失敗して出場できなくなったのだ。 「最初は脂肪から落としていかないとならないのに、ケーキを平気で食べていたりしました。脂肪が落ちないと水分でしか落とせないので、脱水症状を起こして倒れたんです。あと200gだけ落とせばいいから、いけるだろうと思っていた。完全にバカですね」 樋口の偏食と甘い物好きは有名だ。一番大好きなのがマカロンで、比べられないほど好きなブラックサンダー(チョコレート菓子)もやめられない。五輪出場権利をとったカザフスタンでの予選会場では、試合翌日早朝、コーチ陣が姿を現す前にこっそり、中にクリームたっぷりのドーナツを嬉しそうに買い食いしていた。野菜も嫌いで、実に偏った食生活を送ってきた。そのためか、軽量級レスラーとしては珍しく体脂肪率が12%もあった。 「さすがに反省しました。とくに、五輪が決まってからは本当に節制しています。マカロンは、五輪予選の帰国便で立ち寄った仁川空港で食べたのが最後です。練習前にチョコレートを食べることはありますが、本当にお菓子については食べていません。口寂しくなったら、梅ガムを食べてしのいでいます。人生で、こんなにお菓子を食べない生活を送ったことはないです」 頼りになるのかならないのか、なんとも不思議なトーンでお菓子断ちを実行し、初めての五輪で決勝まで進んだ樋口の世代は、2020年東京五輪を見据えた特別な育成研修を施されてきた。レスリングの技術習得だけでなく、付箋紙を利用した思考整理やマインドマップ作成など、まるで企業の研修のような内容も体験している。継続して実践している選手は多くないようだが、東京五輪を目指すとされる今の20歳前後の選手たちの、目標に対するブレのなさに影響を与えているように思える。 争いごとを好まず、レスリング以外は格闘技を見ることも少ない樋口だが、自分が試合で負けるのは大嫌いだ。世界デビュー戦となった五輪で決勝まで進めたことは、自信にもつながった。24歳で迎える東京五輪の目標は、もちろん、金メダルである。 「リオの銀メダルをみて悔しさを思い出しながら、2020年東京では一番、いい色を取れるように頑張りたい」 樋口のように頼りなさそうなふりをして、しっかりと歩みをすすめるのが、東京五輪を目指す世代の特徴のようだ。4年後、1番になる彼らの活躍を楽しみにしたい。 (文責・横森綾/フリーライター)