イラン包囲網にトランプ外遊 突然ではない? サウジのカタール断交
トランプ以前から始まっていたロビー活動
アラブ諸国によるカタールとの断交において、大きな影響を与えているのがサウジアラビアの存在だ。サウジアラビアといえば、長年にわたってアメリカの同盟国であり、1991年1月に湾岸戦争が始まる直前には、サウジアラビアに駐留する米軍部隊の数は54万人を超えていた。湾岸戦争後も、サウジ国内には常時5000人を超える米兵が駐留していた。アメリカにとって、サウジアラビアはエネルギー政策の上でも、中東地域における軍事戦略という点からも非常に重要な地域であることは間違いない。 しかし、オバマ政権時代にアメリカとサウジアラビアの関係が悪化したことを覚えているだろうか。2011年の「アラブの春」でエジプトのムバラク政権は崩壊。その後の国家運営を担ったのは、モルシ大統領率いるムスリム同胞団の色合いが濃い政権であった。王制を否定するムスリム同胞団はサウジアラビアにとって絶対に認められない存在であり、実際にサウジアラビアでの活動は違法である。サウジアラビアはオバマ政権がモルシ政権誕生を支持したことに憤慨。2年後、モルシ政権は事実上のクーデターによって崩壊し、新政権が誕生するのだが、サウジアラビアが経済的に支援を開始したエジプトの新政権をオバマ政権は「人権侵害などの問題が多く報告されている」として、大々的に歓迎することはなかった。また、核協議をめぐってアメリカとイランが接近し始めていたことも、イランと敵対するサウジアラビアにとっては脅威となりつつあった。 両国の関係悪化がピークに達したのは2016年4月。2001年に発生した米同時多発テロの実行犯の大半がサウジアラビア国籍であったため、アメリカでは以前からサウジアラビア政府に対する責任を問う声が存在していたが、米議会もサウジアラビア政府の責任を問う内容の法案の可決に向けて動いていた。この動きを警戒する形で、サウジアラビアのジュベイル外相は米議会に対し、「法案が可決された場合には、総額7500億ドル(約75兆円)の米国債やドル建て資産を売却することもありうる」として、オバマ政権に大きな経済的圧力をかけた。 ジュベイル外相の牽制に米議会やオバマ政権が動揺する中、サウジアラビアは「オバマ後」を見据えて動き出していた。CNNが2日に報じたところによると、サウジ政府は昨年の大統領選挙期間中から現在までに、アメリカ国内の6つのロビイスト団体と契約し、アメリカとの関係改善に向けて動いている。トランプ大統領が5月にサウジアラビア訪問を発表した数日後、サウジ内務省はアリゾナ州にある「ソノラン・ポリシー・グループ」と年間540万ドルのアドバイザリー契約を結んでいる。ソノラン社は昨年12月に新社長として、大統領選挙期間中にトランプ陣営で要職を務めたスチュアート・ジョリー氏を迎え入れている。サウジアラビア以外にも、ソノラン社はニュージーランド政府を顧客に抱えている。 大統領就任後初となる外遊先にサウジアラビアを選んだトランプ大統領は、先月20日に首都リヤドでサウジアラビアのサルマン国王と会談し、その場で1100億ドルの兵器売却で合意している。アメリカは今後10年間でサウジアラビアに総額で3500億ドルに達する兵器類の売却も計画しており、サウジアラビアにとってもトランプ政権の誕生は渡りに船だった。サウジアラビアは21日、UAEと共同で中東地域における女性起業家を支援する基金に1億ドルを拠出することを決定している。この基金は世界銀行によって運営されるが、設立者はトランプ大統領の娘で、大統領補佐官もつとめるイバンカ氏だ。