【Laufey(レイヴェイ)解説】アイスランド出身のグラミー賞受賞歌手とは?魅力から代表曲「From The Start」の解説も
中国人バイオリニストの母と、ジャズ好きのアイスランド人の父のもとに生まれ、2021年にデビューEP『Typical of Me』をリリースすると、たちまちビリー・アイリッシュやBTSのV、ウィロー・スミスから絶賛された新世代シンガーソングライター、レイヴェイ(Laufey)。その魅力をひも解こう。 【動画】Laufey - From The Start / FLASH THE FIRST TAKE ■新たな形のシンガーソングライターであり、歌姫。レイヴェイとは? Laufey(読み:レイヴェイ) ・本名 レイヴェイ・リン・ヨンスドッティル ・出身 アイスランド ・デビュー:2020年4月 ・デビュー作品:シングル「Street by Street」 ビョークやシガー・ロスなどで知られるアイスランドのレイキャビク出身。中国人の母はアイスランド交響楽団の首席バイオリニストで、母の両親もバイオリニストとピアニスト。父はジャズ好きのアイスランド人という音楽一家に生まれたレイヴェイは2歳の時からバイオリンを持ち、4歳でピアノ、8歳でチェロを習い始めた。15歳でチェロのソリストとしてアイスランド交響楽団と共演し、自分のことを“チェロ・オタク”と自覚。2014年にアイスランド版Got Talentのファイナリストとなり、2015年に音楽オーディション番組『ザ・ヴォイス アイスランド』のセミファイナリストとなる。アメリカの名門バークリー音楽大学在学中にパンデミックとなり、実家のアイスランドに戻って2020年にTikTokで配信を開始。ジャズ・スタンダードのカバーを投稿したところ、瞬く間に注目を集め、「TikTokでジャズをZ世代に紹介した」と言われるように。 2020年にデビューシングル「Street by Street」をリリースし、アイスランド国営放送のラジオで1位を獲得。翌2021年にリリースしたデビューEP『Typical of Me』に収録された「Street by Street」がすぐさまアイスランドのラジオチャートでトップに立ち、TikTokやInstagramで同じZ世代の何十万人ものフォロワーを獲得した。 2022年にはデビューアルバム『Everything I Know About Love』をリリースし、ビルボード・オルタナティヴ・ニューアーティスト・アルバムのチャートで1位を獲得。2023年にリリースしたセカンドアルバム『Bewitched』は第66回グラミー賞ベスト・トラディショナル・ポップ・ボーカル・アルバムを受賞。 日本には2023年6月にブルーノート東京で日本初ライブを行い、翌年『SUMMER SONIC 2024』に出演。楽曲ごとにチェロ、アコースティック・ギター、ピアノを演奏し、ジャズ/ボサノバ/クラシックといったスタンダードなサウンドの要素をたっぷりと感じさせながら、モダンさを宿した楽曲でオーディエンスの喝采を浴びた。 ■世界が注目したグラミー賞受賞 史上最年少の24歳でセカンドアルバム『Bewitched』が最優秀トラディショナル・ポップ・ボーカル・アルバムを受賞したレイヴェイ。1992年から毎年発表されている最優秀トラディショナル・ポップ・ボーカル・アルバムとは、伝統的かつボーカルが全体の51%以上を占めるアルバムに授与される賞だ。2020年の受賞作はエルヴィス・コステロの『ルック・ナウ』、2021年はジェームス・テイラーの『アメリカン・スタンダード』、2022年はトニー・ベネット&レディー・ガガの『Love For Sale』、2023年はマイケル・ブーブレの『Higher』と、錚々たる受賞作に『Bewitched』は加わった。 レイヴェイ曰く「友人や恋人、人生への愛など、愛のアルバム」である『Bewitched』には全14曲のロマンティックなストーリーが収録されている。ジャズをベースに多彩な音楽をちりばめ、ディズニー映画やミュージカル的な世界観を描いた。新曲4曲を追加収録したデラックス・バージョン『Bewitched: The Goddess Edition』もリリースされ、『Bewitched』の続編としてさらに進化したレイヴェイを見せつけたことも記憶に新しい。 ■レイヴェイの魅力とは?世界中で注目される理由 ◎クラシックな音楽性とZ世代に刺さるポップさの融合 音楽一家で育ち、幼い頃からクラシックやジャズを血肉化してきたレイヴェイ。ジャズやクラシックが若い世代にとってはとっつき辛いところがあると自覚し、TikTokでジャズを紹介したことでZ世代にジャズは新鮮な音楽として刺さった。また、テイラー・スウィフトを敬愛するレイヴェイが書くリリックは等身大の想いがビビッドに描かれていて、近い距離感を感じさせる。ジャズやクラシックをベースにボサノバやチェンバーポップやフォークやR&Bといったサウンドを昇華したサウンドと等身大の歌詞が融合し、高い普遍性を宿したポップミュージックとなり得ているところがレイヴェイの楽曲の魅力だろう。 ◎耳に残る心地いい唯一無二の歌声 グラミー受賞作『Bewitched』を再生するとまず、「Dreamer」のたおやかで美しいハーモニーにうっとりさせられる。まるでエラ・フィッツジェラルドを想起させる深みのある歌声で、ロマンティックで悲しい夢想の世界を築き上げていく。 そんなファンタジックな世界にリスナーを一気に引き込むことができるのはほかでもない歌の力があるからだ。2024年のサマーソニックではバンドがその唯一無二の歌声を引き立たせる隙間の多いアンサンブルを聞かせる中、レイヴェイの歌声はとても奥深く、瑞々しく、貫禄すら滲ませながら響き渡り、たくさんのオーディエンスが感嘆の声を上げていた。 ◎世界的なアーティストからの賞賛、コラボ作品 ビリー・アイリッシュを筆頭に、BTSのV、ウィロー・スミスなど、多くのアーティストから賞賛されているレイヴェイ。2023年には友人でもあるフィリピン出身ロンドン育ちのシンガーソングライター、ビーバドゥービーとのコラボ曲「A Night To Remember」をリリース。 また、ジャズを幅広い層に訴求したという点で先駆者にあたるであろうノラ・ジョーンズとのコラボも実現。2曲入りシングル『Christmas with You』は、クリスマスソングの定番曲「Have Yourself A Merry Little Christmas」のカバーと共作曲「Better Than Snow」が収められ、惚れ惚れするようなハーモニーを聞かせた。 ■『THE FIRST TAKE』での代表曲「From The Start」 レイヴェイが日本のメディア初パフォーマンスの場所に選んだのは『THE FIRST TAKE』。まず公開されたのは『Bewitched』に収録されている「From The Start」だ。 ライブでオーディエンスのシンガロングが巻き起こるレイヴェイの代表曲で、全世界で6億回以上再生されている。原曲はバンド編成によるジャズ×ボサノバの曲だが、『THE FIRST TAKE』ではピアノの弾き語りで披露。Aメロからレイヴェイの歌の奥深い雄弁さに心をぎゅっと掴まれる。最小限に鳴らされていたピアノはレイヴェイの歌声がエモーショナルになっていくと同時に躍動的に。“恋した相手は自分のことをおそらく愛しておらず、他の人の話をする”という状態に絶望的な気持ちを抱きつつも、“最初からあなたを愛していました”と告白するという楽曲に込められた切なさがより生々しく突き刺さってくる。しかし、時折織り込まれるどこか陽気なボサノバの手触りがシニカルさを宿し、愛らしくフレンドリーな曲に転化しているのが面白いところだ。 ■レイヴェイの世界観にハマる!おすすめ曲5選 「Love Sick」 『Bewitched』のリード曲。故郷アイスランドで感じた車の中に座って風に髪がなびかれ、黄金色の光が降り注ぐ瞬間にインスパイアされた楽曲だ。軽やかなギターにふわーっとしたストリングスが融合し、ファンタジックでドラマティックな盛り上がりを見せる。誰かに恋をする時に感じる特別な瞬間について綴られ、恋をした時の胸の高まりを体現したようなレイヴェイのボーカリゼーションとサウンド・デザインが秀逸。アウトロのコーラスにも高揚感と切なさが混在する。 「A Night To Remember」 先述した同世代のシンガーソングライター、ビーバドゥービーとのコラボ曲。ふたりで相談し、「少しセクシーなものを書こう」と決めた上で制作された「A Night To Remember」はロンドンでビーバドゥービーのプロデューサーのジェイコブ・バグデンが参加する形でレコーディングされた後、LAでレイヴェイのプロデューサーのスペンサー・スチュワートによって仕上げられた。気怠く甘くセクシーなトラックの魅力を増長させるように、深い影を落としたレイヴェイの歌声とウィスパー気味のビーバドゥービーの歌声が絡むことで、深遠な色香と憂いが生まれている。 「Goddess」 デラックス・バージョン『Bewitched: The Goddess Edition』のタイトル曲。“ステージに立つ自分は女神だけど孤独な時は人間である”と歌うこの曲は、有名人となったことへの戸惑いや重圧、そして絶望的に深くなった孤独感を一歩一歩噛みしめるようにして積み重ねていく壮大な楽曲だ。『THE FIRST TAKE』でレイヴェイはエレクトリックギターを爪弾きながら歌い、曲に込められた切迫感を増大させた。 「Bewitched」 『Bewitched』のラストを飾るタイトル曲。世界的な名門オーケストラのひとつ、フィルハーモニア管弦楽団とコラボレーションした楽曲で、ディズニー映画を思わせるようなオーケストラポップだ。“あなた”に愛の言葉をささやかれて初めて感じる愛という感情。恋とは魔法であり、経験したことのないような炎が燃え盛り、自尊心を失うものなのだ、と。くらくらするような甘く狂おしい世界がファンタジックなサウンドの中で展開される。 「Valentine」 デビューアルバム『Everything I Know About Love』の3曲目に収録され、TikTokでバズりまくった楽曲だ。ジャズのスタンダードナンバーの香りが色濃い楽曲で、ジャズに馴染みのないZ世代に新たな風を吹かせた。愛し愛されることへの恐怖を滲ませながら、心は“あなた”の接近にときめいて仕方がないという状況を体現したようなはにかみと戸惑いを共存させるレイヴェイのボーカリゼーションが絶品。 ■レイヴェイ最新情報をチェック! 2024年11月、クリスマスの定番シングル「サンタ・ベイビー」をカバーした最新シングルを収録したEP『A Very Laufey Holiday』をリリースし、シンガーソングライターとしてさらなる成長を見せているレイヴェイ。若き才媛が描く世界に今後も注目だ。 TEXT BY 小松香里
THE FIRST TIMES編集部