投資で大きく負けないために知っておきたい、ファンド運用における「為替リスク」の考え方【資産運用のプロが解説】
環境や構造の変化によって為替にも影響が及びます。本記事では、ファンド運用における為替リスクについて「大きく負けない運用」を実践する本庄正人氏(キャピタル アセットマネジメント株式会社)が詳しく解説します。
為替リスクに対するこれまでの機関投資家の態度
年金基金や大規模法人の資産運用担当として、1980年代の後半から主に米国株式を中心に外国証券投資に携わってきた者としては、外国為替の相場変動や取引そのものについて、いつも特別の思いが伴います。その当時(1988年頃から)が円の資金から海外の証券へ投資することが本格化した時期だったと記憶します。海外の証券に投資することは、即ちUSドル、英国ポンドはじめ多様な外国為替市場に出て行って為替取引を行うことになります。 また、1980年代後半から2000年代にかけては趨勢的に円が他の先進国通貨に対して高かったため、「為替ヘッジ」が極めて一般的であったと思います。現在と同じく円は常にプレミアム通貨、USドルはディスカウント通貨でしたから(日本の金利は低く、米国の金利は高い)双方の短期金利差プラスベーシス・コストがヘッジのコストです。米国は高金利の時代でしたから、まずは債券投資が有望と思われていました。そして、海外投資にはヘッジのオペレーションが付き物でした。ヘッジコストを上回る、少なくとも損をしないヘッジ手法は無いものかと様々な模索をしました。 何らかの形でヘッジをしない限り債券にしろ株式にしろ、海外に投資することは、その国の為替に投資することを意味します。従って、投資の見返りであるリターンも現地通貨建てと円建ての両方が存在します。勿論国内の投資家にとって重要なのは円のリターンです。 一方で財の世界、即ち貿易においては、日本製の自動車、電機、電子製品が、その商品性や革新性が高く評価され世界中で売れまくっていた頃でした。稼いだドルを円に転換するため、為替相場は短期的にも中長期でも円高バイアスがかかっていました。中高生の頃に習ったように原材料を輸入し、付加価値を付けて海外市場に販売する(輸出、加工貿易)のが、技術的優位性と価格競争力を保てる限りは最良のビジネスモデルでした。 また、1980年代後半は、証券の世界では日本株式こそが過去何年間にもわたり他の先進国市場をアウトパフォームし、主要な年金基金向けのアセットアロケーションの提案では国内株式を規制上限いっぱいの30%と位置付けることが常でした(1995年までは、いわゆる5・3・3・2規制と言われた年金資産に関するアセットアロケーション上の規制があったのです。安全資産(元本保証資産)の比率を5割以上、国内株式の比率を3割以下、外貨建資産の比率を3割以下、土地等不動産の比率を2割以下にするというものでした)。 年金基金等多くのアセットオーナーはCB(国内の転換社債)をも戦略的なアロケーションとして位置づけていたように記憶します。外貨建て証券はと言えば多くのオーナーで外国債券が5%、外国株式は3%程度という限界的な位置づけの資産でした。 現在、国民の年金資産を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の長期的な資産配分が国内、外国の株式を合わせて50%程度とされていることを考えますと、時代の変化(投資理論の成熟とリスク管理の進歩)を感じます。 海外への直接投資ないし証券投資は、物に例えると円を輸出して外貨を輸入(購入)するという行為です。従って、物とサービスの収支である経常収支が均衡していれば海外への投資は円安要因となり得ます。2010年までは圧倒的な貿易黒字が趨勢的な円高を招いていた訳ですが、2011年の東日本大震災と2013年から始まったアベノミクスによる量的・質的金融緩和によって円・USドル為替レートの趨勢が円高から円安へと逆転した可能性が高いと言えます。