リンゴやバナナ風味の華やかな香り 培養装置の故障がもたらした偶然の吟醸香 熊本大研究グループが独自の酵母開発
日本酒や焼酎の香りを左右する酵母の中でも珍しい増殖を特徴とし、吟醸香を醸す独自の酵母を熊本大(熊本市中央区)の谷時雄(ときお)特任教授(放送大学熊本学習センター所長)の研究グループが開発した。培養装置の故障がもたらした偶然の産物で、独自酵母で醸造された米焼酎はリンゴやバナナの風味を思わせる華やかな香りが人気という。 【写真】パチンコ・スロット店向けサービスを提供するJ-NETの景品カタログに掲載されることになった焼酎やリキュール グループが用いたのは、1300種を超える酵母の中でわずか4種という分裂酵母の一つジャポニカス。約7年前から紫外線照射による変異と培養、選別を繰り返し、香り成分の高い株を育てた。最終的に残った二つの株を「Kumadai(クマダイ)株」の「M35」「S37」と名付けた。 谷さんの専門は分子生物学。遺伝子研究のために分裂酵母を培養していたところ、装置の故障で分裂を促す振動が停止し、培養液に酸素が入りづらくなってアルコール発酵が進行したという。ある朝、良い香りに気付き、香味を作ることが分かった。 仕込み試験は県産業技術センターが協力。香り成分は通常の酵母の4~10倍との分析結果も得た。谷さんは、意図しないことが思わぬ発見につながる「セレンディピティ」と指摘する。 米焼酎は熊本県人吉市の深野酒造が商品化。「(2020年の)熊本豪雨の被災地支援につながれば」(谷さん)と酵母の無償提供を受け、M35の「ときのかおり」(25度、720ミリリットル、2200円)とS37の「原酒」(42度、同、3520円)を生産し、3月に計1300本を発売した。 球磨焼酎酒造組合の理事長でもある同社7代目の深野誠一社長(52)によると「吟醸酒のようなさわやかな香りが人気」。既に在庫はなく、来春の出荷分を仕込んだ。S37製を気に入ったという英国のホテルバーテンダーから1タンク分(25度の焼酎換算で700リットル)の注文を受けており、海外への輸出拡大も狙う。深野社長は「新しい商品に挑戦する機会を頂いた。組合としても盛り上げていきたい」と話す。 2種の米焼酎は熊本大の生協など一部で販売が続いているほか、S37の地域限定「人結(じんと)」(25度)は人吉市の小売店で購入できる。 (藤崎真二)