暑さ指数33以上はリモート推奨 オフィス回帰でも進む「人的資本のBCP」
台風10号が猛威を振るった2024年8月末、IT(情報技術)サービス大手SCSKの社内イントラネットには注意喚起のメッセージが流れた。必要に応じて在宅勤務をするよう呼びかけただけではなく、ハザードマップが閲覧できるウェブサイトへのリンクや、自宅で実践できる防災の心得なども紹介している。人事労務部の富内龍太郎労務課長は「普段は個別に発信している情報の一覧性を高くしている」と話す。大雪など、他の異常気象が生じた際にも同様の対応を取るという。 【関連画像】職場での熱中症による死傷者数。(出所)厚生労働省 ●普段のテレワーク推進が異常気象時に奏功 台風などで交通機関のまひなどが予想される場合には、出社を控えるよう呼びかける企業は多いだろう。ただ在宅勤務に切り替えた場合に、どの程度円滑に業務を進められるかは普段の「備え」次第だ。SCSKではこの10年ほどで、「どこでもWORK」と銘打った勤務場所の柔軟化を進めてきた。在宅勤務の環境を整備するために1カ月当たり5000円のリモートワーク推進手当を支給し、全国各地にサテライトオフィスを設置。コアタイムがないフレックス勤務制や、時間単位で取得可能な休暇制度も導入し、社員の子どもが通う学校の休校など突然の事情にも対応しやすくしている。 富内氏は「(出社とテレワークの)ベストミックスを今も追求している」と話す。台風など異常気象への対応もその一環と位置づけられれば、社員も柔軟に判断しやすくなる。 新型コロナウイルス禍をきっかけに一気に普及した在宅勤務だが、足元では社員同士のコミュニケーション不足などを受けて「出社回帰」の動きが強まっている。SCSKも普段は週2日程度の出社を呼びかけているという。 一方で、テレワークの環境は台風など異常気象の際に事業の継続性を高める面もある。働き方の柔軟化の手を止めてしまうと、非常時の事業運営の強靱(きょうじん)性が落ちてしまう。
厳しさを増す猛暑にテレワークで対応する企業も出てきた。タイヤメーカーのTOYO TIREは、猛暑と新型コロナの感染者数増加を受けて在宅勤務の推奨を強化している。7月23日から9月30日まで、兵庫県伊丹市の本社や東京事務所などで完全在宅勤務を可能にしている。従来は在宅勤務について「原則7割まで」としていた。 ●猛暑も「災害の1つ」と捉えテレワーク 同社の担当者は「この措置は主として暑熱対策のためだ。暑い中通勤すると非常に疲労するし、出社してからもしばらく集中できないなどの弊害もある。従業員の健康を最優先に、生産性の維持という点も考慮して実施を決めた」と説明する。コロナ禍でも原則在宅勤務としながら業務を運営できた経験から、暑さ対策の導入も問題ないと判断した。 在宅勤務の推奨前は6割程度の社員が出社していたが、推奨後は4~5割程度まで下がったという。最終的には3割程度まで下がるのではないかと見ている。同社はクラウドを使用する情報管理システムを導入し、社外からも社内情報にアクセスしやすくするなど、在宅勤務に対応できる仕組みを整備してきた。 取り組みは中小企業にも広がる。スマートフォンケースなどを企画・開発するトリニティ(埼玉県新座市)は、環境省が発表する「暑さ指数」が、熱中症警戒アラート発出の基準となる33を超える予報が出た日にはリモートワークを推奨するようにした。2024年は対象となる日がこれまでに7日あり、多い日では約4割の社員が在宅勤務に切り替えた。 制度導入のきっかけは22年、会社の前の路上で高齢者が熱中症とみられる症状で倒れたことだった。この年は社員も熱中症の症状を訴える事例が相次いだ。「これだけ体調を崩す人がいるのであれば、災害の1つと捉えて仕組みを作った方がよいのではないか」(山本洋平副社長)と考え、在宅勤務の推奨を始めた。