お腹が膨れて苦しみながら死に至る奇病… 謎の感染症と闘った研究者に脚光 絶版本が20年を経て文庫化
ノンフィクション作家、小林照幸さんが書いた「死の貝」
長野市出身のノンフィクション作家、小林照幸さん(56)=東京、信濃毎日新聞社のコラム「今日の視角」筆者=が、寄生虫感染症の一種「日本住血吸虫症」をテーマに描いたノンフィクション作品「死の貝」が新潮社から文庫化された。単行本は20年ほど前に絶版になっていた。感染経路を解明した更級郡西寺尾村(現長野市松代町)出身の宮入慶之助(1865~1946年)の業績などを詳述。文庫化に当たり、内容を一部加筆した。 【写真】謎の感染症の媒介となったミヤイリガイ
日本住血吸虫症は、かつて甲府盆地や福岡・佐賀両県にまたがる筑後川流域などを中心に流行。腹が膨れて死に至る奇病として恐れられた。
宮入は九州帝大医科大(現九州大)の教授だった1913(大正2)年、筑後川流域で新種の巻き貝を発見。日本住血吸虫の幼虫が寄生して育つ中間宿主と突き止め、「ミヤイリガイ」と命名された。流行地ではミヤイリガイの撲滅対策が取られ、現在、国内で新たな感染者はいなくなった。宮入の発見は、アフリカなどでまん延する別の住血吸虫症の解明にもつながった。
「死の貝」は各地の有病地や資料の調査、関係者への聞き取りを基に、1998年に文芸春秋から刊行した。文庫版では、宮入が県内出身だったことなどの経歴や、明治期の山梨県による日本住血吸虫症への対応などについて加筆。新設の「補章」では、宮入がノーベル賞候補になったことや、ミヤイリガイが2012年に絶滅危惧種に指定されたことに触れた。 小林さんは「宮入の発見で世界の公衆衛生対策が進んだことは紛れもない功績。英知を結集し、多くの先人が苦しんだ病気を克服した歴史を忘れてはならない」と話している。336ページ、737円。