「物価目標達成時期の後ろ倒し」で懸念される“アベノミクス2018年問題”
日銀の金融政策を巡っては、この9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入した直後ということもあって、追加緩和期待はほとんど生じていません。実際、10月31日、11月1日の日程で開催される金融政策決定会合で、追加緩和を予想する向きは皆無に等しい状況です。 そうした中、注目すべきは日銀が予想する物価目標達成時期が後ろ倒しされるか否かです。日銀が示している最新の予想によると、2%の物価目標が達成される時期は「2017年度中」、つまり、2018年3月までとされています。日銀は、原油価格がある程度反発してエネルギー価格が上昇する下、景気回復を背景に需給ギャップが改善することで、経済の体温である物価が2%に到達するというシナリオを描いているようです。しかしながら、現実に目を向けると、仮に日銀のシナリオが実現したとしても2%には程遠く、目標達成の可能性は低いと判断されます。要するに、物価目標達成時期の後ろ倒しは時間の問題です。
「2018年3月まで」の物価目標達成困難が示す意味
さて、「2018年3月まで」の物価目標達成が困難となった場合、それは非常に大きな意味を持ちます。なぜなら、黒田総裁の任期中に物価目標が達成できないことを意味するからです。2013年に就任した黒田総裁の任期は5年ですから、当初2年で達成すると宣言していた物価目標は5年経ってもできなかったことになります。いくら原油価格下落という日銀にとってどうにも対処できない不運があったとしても、「失政」を象徴することになってしまいます。
アベノミクス「2018年問題」とは?
ところで、アベノミクスには「2018年問題」がというものがあります。アベノミクスの旗振り役である安倍首相の自民党総裁任期と、黒田日銀総裁の任期がほぼ同時に期限を迎えることです。最近の報道によると自民党の総裁任期は延長の方向で方針が固まりつつあるようですが、問題は日銀総裁です。いわずもがな、黒田総裁はアベノミクスを象徴する人物で「黒田バズーカ」という言葉は誰もが一度は耳にしたことがあるほどポピュラーになっていますから、黒田総裁が退任すること自体がアベノミクスの終焉を連想させます。やや大袈裟に言えば、それがデフレ要因になる可能性さえ秘めているのです。 そこで注目されるのが、黒田総裁の続投シナリオです。歴代の日銀総裁任期を振り返ると、昭和39年以降は概ね5年任期・再任なしがパターン化していますが、筆者は黒田総裁がこの慣例を崩す可能性に注目しています。筆者は、従前から黒田総裁の続投がありうると考えてきましたが、最近はその可能性が高まっているように感じられます。上述したとおり、安倍首相が2018年以降も続投する可能性が高まっているので、ある種のパートナーとして黒田総裁に続投を要請する可能性があるからです。日銀が次の会合で物価目標の達成時期を先送りすれば、それが契機となって政府サイドから黒田総裁に続投の打診がある可能性も考えられます。そろそろ「次期日銀総裁 黒田氏続投の方向で調整」といったニュース・観測報道が出てくるかもしれません。なお、筆者個人の見解としては「政策の予見可能性」という観点から黒田総裁の続投が望ましいと考えています。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。