『海のはじまり』村瀬健Pが明かす撮影の裏側 目黒蓮は「相手の能力を吸収していく」
村瀬健プロデューサーが、『海のはじまり』の現場で感じた“俳優”目黒蓮の魅力
ーー『海のはじまり』の撮影を通して感じた目黒蓮さんの俳優としての魅力を教えてください。 村瀬:X(旧Twitter)でも書きましたけど、映画『トリリオンゲーム』の目黒さんってカッコいいじゃないですか(笑)。Snow Manが出ている音楽番組も観るけど夏とは全然違う。つまり、夏を演じるときのオーラの消し方、そして決してカッコ悪くはないんだけど、“ただの人”を演じられるその落差ですよね。僕は『silent』の想くんよりも、今回の夏の方がより“どこにでもいる人”を演じてもらっていると思っています。ただ、ああいうキャラだから、皆さんイラっときたり、不安になったり、夏に対して頼りないと思うことも多々あると思うんです。そういうキャラクターを、多分いま日本で一番キラキラしている目黒さんが見事に演じているのは、実はすごいことだと思っています。 ーー確かに(笑)。 村瀬:『silent』などもそうでしたが、今回も共演者が豪華じゃないですか。全員スゴい役者さんたちですよね。テクニックだけじゃなくて心で演じる方々と一対一で芝居をしているからでしょうか、どんどん良くなっている。星奈ちゃんと向き合っていることも大きいと思います。星奈ちゃんの芝居は本当に自然で、大人の役者には出せない良さがあるので、これも目黒くんにとってはいい刺激と経験になっているんじゃないかなと思いますね。 ーー目黒さんの演技で驚くことも多いんですか? 村瀬:第1話で朱音に「想像はしてください」と言われたときの夏の表情は、今までの彼のお芝居になかった領域に入っていたと思います。弥生に「私、殺したことある」と言われて何も言えなくなったカフェでのシーンも、今までの目黒蓮の芝居にはなかった表情をしている。(名優と)向き合うたびに、新しい表情が出ている気がします。 ーー目黒さんが他の俳優さんたちと対峙することによって、相乗効果が生まれているんですかね? 村瀬:池松さんも目黒さんのことをよく「素晴らしい役者さんだ」と言っているように、目黒さん自身もすごい役者さんなんですよね。少年漫画的に言うと、相手の能力を吸収していく感じ(笑)。「池松さんの芝居すごい!」と思いながら、何かを感じて、自分に取り入れているんじゃないかと思いますね。夏はたくさん喋る人間ではないので、台詞は少なく、(言葉を)受けた表情、その都度見つめる目線、考える間みたいなもので伝えることがたくさんある役だと思うんですけど、その表現が圧倒的に広がってきているし、ちゃんと我々が伝えたいものを表現してくれるようになっている。目黒くんの演技力は話数ごとに成長していると思います。 ーーこれまでの名場面、想像を遥かに超えたと感じるシーンを教えてください。 村瀬:衝撃だったのは、第7話の池松さんの電話ですね。訃報の電話を受けたことを表情だけで見せるあの1シーンで、津野くんが抱えていたものが全部分かるじゃないですか。ちなみに、第6話で津野くんが夏に「(亡くなった水季のことは)思い出したくないです」と答えたシーンも素晴らしかった。あれも台本には「即答する」と書いてあったんですけど、(池松さんは)ためてためて答えましたよね。あそこは生方さんの狙いとして、その翌週、あの電話のシーンを見ることによって「『僕の方が悲しい自信があります』と言った意味、『思い出したくないです』と言った理由が分かる作りになっているのですが、それを見事に表現してくれていました。何年もこの仕事をやってきましたけど、この一連の池松さんの演技には驚きました。僕はいつも、生方さんが書いた本を読んで、自分なりに解釈をして「こういうお芝居が来るだろう」と思ってプロデュースをしているんですけど、池松さんの芝居は、その向こう側にある「もっと深いもの」を教えてくれるんですよ。感心を通り越して感動しています。 ーー確かに、あのシーンを名場面に挙げる視聴者の方も多いでしょうね。 村瀬:そして先ほども言った主演の目黒蓮に加えて、ヒロインの有村架純もすごい。弥生って本当に難しい役で、有村さんも苦しみながら演じていらっしゃるんですよ。台本ができた段階で、台詞の意味や気持ちについて、まずは僕とディスカッションをして落とし込み、さらに現場で感じたことを今度は監督とディスカッションしながらやっていて……本当に役と真摯に向き合ってくれています。 ーー物語が展開していく上で、弥生が担う役割はかなり大きいですよね。 村瀬:第2話ぐらいまでは、みんな弥生のことを怒っていたじゃないですか(笑)。でも第6話で「弥生ちゃーん(涙)」になった。そういう意味で言うと、嫌われかねない役を丁寧に演じてくれたし、一方で夏と2人でいるときの弥生のかわいらしさ、可麗さみたいなものを演じるのが、ものすごく上手。そういうところがすごい俳優さんだなと思います。 ーー古川琴音さん演じる水季については? 村瀬:古川さんも不思議なキャラクターをとにかく魅力的に見せてくれていますよね。捉えようがないけど芯が強くて、男女問わず「あのキャラクターだったら翻弄されるな」という魅力をちゃんと出せている。「あの役は古川さんしかできなかったな」って思いますね。みんなすごいです。 ーー大竹しのぶさんは? 村瀬:大竹さんは、言うまでもないじゃないですか。すごいに決まってるので(笑)。日本を代表する名優だと思っていましたが、その理由を日々目の前で実感させて頂いております。 ーー夏と弥生が別れた第9話は、大きな話題を呼びました。 村瀬:第9話は本が最高でした。僕、生方さんとこれまで3作品やってきたんですけど、もしかしたら一番好きな本かもしれません。ちなみに第6話も本当に好きな本で、生方さんから、最後につながる(弥生の書いたノートが、海が生まれるきっかけとなる)アイデアを聞いたときは、背中に何かが走りましたね。そういう意味では第6話も好きなんですけど、第9話も本当に好きな回です。弥生はゆき子(西田尚美)から、「自分には夏がいたから、夫の和哉(林泰文)が亡くなった奥さんのことを好きでも大丈夫だったが、弥生にはすがる人がいない」と言われ、津野くんからも、「水季が夏と弥生が一緒にいるところを見たことで夏と会うのをやめた」と聞いたじゃないですか。そうしたことを含め、弥生が下した決断と別れのシーンがあの回の見どころでした。深夜のホームでの別れのシーンは、個人的にも大好きなシーンになりました。最高の脚本を、目黒さんと有村さん、そして髙野監督が最高のシーンに仕上げてくれたと思っています。 ーー最終話に向けて登場人物たちがどう動くのか、今から楽しみです。 村瀬:最近では珍しく、今回は全12話なんですよね。しかも「特別編」も放送したので、13週かけて描きます。第11話、第12話は、2本合わせて「最終回2時間スペシャル」になるようなイメージで作っています。生方さんが書いてくださった「選べなかった“つながり”は、まだ途切れていない」というキャッチコピーにあるように、第8話までのエピソードで「あのことも、このこともそうだったんだ」と感じると思うんですけど、夏と海が、そしてそれぞれの登場人物たちがどういうゴールに向かっていくのか。生方さんが12話かけて見事に紡いでくださっているので、最後まで見届けてほしいと思います。
浜瀬将樹