戦時作戦統制権もない韓国に「即時に、強力に、最後まで」が可能なのか
[クォン・ヒョクチョルの見えない安保]
当初、シン・ウォンシク国防長官が国家安保室長に移れば、シン長官がこれまで強調してきた「即時に、強力に、最後まで」のスローガンも消えるだろうと、軍内部では予想されていた。これまで歴代の国防長官、合同参謀議長、各軍参謀総長などが変われば、前任者が強調した政策や特定の用語も一緒に退場したためだ。シン前長官は昨年10月に就任して以来、北朝鮮が挑発すれば「即時に、強力に、最後まで報復せよ」と強調し、長官が一線部隊を訪問する度に、将兵たちはこれを縮めて「即強最」というスローガンを力強く叫んだ。 キム・ヨンヒョン国防長官は6日、ソウル龍山国防部庁舎で開かれた就任式で、「敵が挑発してきたら、『即強最の原則』で残酷な代償を払わせる」と述べた。キム長官は2日の国会での人事聴聞会で「即強最」に触れたのに続き、就任のあいさつでも取り上げた。キム長官は大方の予想とは違って「即強最」というスローガンを受け継ぐ意思を明確にした。 キム長官は就任3日目の9日、海兵隊第2師団を訪れ、「敵が挑発するなら、即強最の原則の下、敵がさらなる挑発をできなくなるまで十分かつ断固として報復し、結果を報告せよ」と指示した。キム長官は、「即強最」を継承することを越え、その意味を拡張した。就任のあいさつで「即強最の『最後』は北朝鮮政権と指導部であり、彼らが挑発すれば政権の終末を迎えることになるだろう」と警告した。シン前長官時代の即強最は「敵が浸透・挑発すれば最短時間内に『即強最』の原則で現場で作戦を終結する」という意味だった。ところが、キム長官は即強最の最終目標緒として「北朝鮮政権の終末」を示した。 一方、軍内部ではこれまで、キム長官とは違って、「即強最」のスローガンを達成しなければならない国防政策の具体的目標ではなく、レトリックとして受け止めてきた。対外的には北朝鮮の挑発を容認しないという意志を強く発信し、内部では将兵に戦闘意志を高めるものとして考えられてきた。まるで、国軍将兵たちが「休戦ライン155マイルを水も漏らさず守る」と誓っても実際には休戦ラインを水も漏らさず守ることができないように。にもかかわらず、将兵たちがこのような約束をするのは、徹底した対北朝鮮警戒態勢を強調するレトリックだ。 これまで「即強最」がレトリックとして認識されたのは、現実では実現が困難か不可能であるためだ。まず、即強最の「強力に」は国連軍司令部と連合軍司令部の停戦交戦規則と衝突しており、国連軍司令部に停戦協定違反として問題視される可能性がある。交戦規則には部隊の配置や戦闘準備態勢、武力行使の条件と時期、特定軍事的手段の利用承認、制限などの内容が含まれる。交戦規則は平時と戦時に分けられる。韓国は軍事的に停戦状態であるため、現在の状況で北朝鮮が軍事的に挑発すれば、国軍は国連軍司令部・連合軍司令部の522-4停戦交戦規則(国連軍・連合軍司令部停戦交戦規則)と合参の交戦規則に従って対応する。 国連軍・連合軍司令部の停戦交戦規則は、国際法を反映して武力を行使する際の比例性を強調する。比例性とは、武力行使が過度であってはならず、脅威の要因を除去する目的に限定しなければならないという意味だ。第一線の部隊では将兵たちに「やられた分だけやり返せ」(同種同量対応)というふうに比例性を簡単に教育してきた。例えば、北朝鮮が銃弾1発を発射すれば、銃弾1発で対応するということだ。 独自の交戦規則を持たず、国連軍・連合軍司令部の交戦規則に従ってきた韓国は、2010年11月の延坪島(ヨンピョンド)砲撃戦で困難を経験した。当時、軍指揮部内で、空軍の戦闘機を用いる対北朝鮮報復攻撃の権限は韓国にあるのか、韓米連合軍司令部にあるのかをめぐり混乱が生じた。その後、国軍独自の交戦規則を作る必要性があるという声が高まり、2013年に合参が交戦規則を作った。合参の交戦規則には「北朝鮮の挑発に対し、十分に報復する」という趣旨の「十分性原則」が加えられたという。 平時、韓国軍には合参の交戦規則と国連軍・連合軍司令部の停戦交戦規則が重複適用されるため、指揮の統一性の側面で問題が発生する。国連軍・連合軍司令部の停戦交戦規則は国際法上の原則である比例性を強調し、合参の交戦規則は自衛権のレベルで十分性を強調するためだ。2020年5月3日、非武装地帯の北朝鮮軍監視警戒所(GP)から韓国の監視所に向けて銃弾4発が発射されたが、韓国軍は機関銃弾30発を対応射撃した。国連軍司令部はこの事件を調査した後、「南北がいずれも停戦協定に違反した」と発表した。当時、国連軍司令部は4発に30発で対抗した韓国軍が国連軍・連合軍司令部の停戦交戦規則上「比例性原則」に違反し、過剰対応を行ったとみなした。 キム長官は「即強最の『最後』は北朝鮮政権と指導部であり、彼らが挑発すれば政権の終末を迎えることになる」と警告したが、韓国には「最後まで」進む権限がない。1994年に韓国は平時の作戦統制権を取り戻したが、戦時作戦権統制権(戦作権)は韓米連合軍司令官(在韓米軍司令官)にあるためだ。今のような「デフコン(DEFCON)4」の警戒状況では韓国が作戦統制権を行使するが、朝鮮半島の危機が高まり「デフコン3」になれば、韓国軍の作戦統制権が自動的に韓米連合軍司令部に移る。デフコンとは朝鮮半島での「敵の挑発に対する防衛準備態勢」を意味するが、朝鮮半島の軍事的緊張が高まると4→3→2→1の順に段階的に高まる。朝鮮半島は1953年7月の朝鮮戦争休戦以来、ずっとデフコン4の状態だ。 デフコン3が発令されれば、韓国軍は戦時交戦規則(WROE)に従わなければならない。戦時交戦規則は、韓米連合軍司令部の作戦計画5015に含まれている。この戦時交戦規則の作成権者は韓米連合軍司令官だ。韓国が北朝鮮政権の終末を目標に「最後まで」懲らしめようとする時は、少なくとも「デフコン3」以上の危機状況だ。この時、韓国には戦作権だけでなく、独自の戦時交戦規則もない。「最後まで」突き進む意志が十分あったとしても、韓国にはこれを独自に決行する軍事的権限がない。 「即強最」の具現化する重要な前提条件は戦作権移管だが、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は戦作権の移管には全く興味がない。尹錫悦政権の国防長官らが即強最を叫ぶ姿は、「ソウル大学合格!」を机の前に大きく貼っておいて、毎日机にうつぶせになって寝てばかりの受験生を思い出させる。 クォン・ヒョクチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )