『告白 コンフェッション』で初共演!生田斗真&ヤン・イクチュンが感じた、ワンシチュエーションでの“芝居の力”
「カイジ」の福本伸行(原作)と「沈黙の艦隊」のかわぐちかいじ(作画)という漫画界の巨匠同士が組んだコミックを、『カラオケ行こ!』などの山下敦弘監督が映画化した『告白 コンフェッション』(5月31日公開)。 【写真を見る】『告白』の劇中とは別人のように笑い合う生田斗真とヤン・イクチュン 大学の山岳部のOBである浅井(生田斗真)とジヨン(ヤン・イクチュン)は、大学の卒業登山中に行方不明になり、事故死とされた同級生さゆりの17回忌となる慰霊登山中に猛吹雪で遭難してしまう。そんな極限の状況下で足に大怪我を負い助からないと思ったジヨンは、浅井に「さゆりは実は俺が殺したんだ」と告白。ところが、その直後に山小屋が現れ、一命をとりとめた2人はその閉ざされた空間で狂気の一夜を過ごすことになるが…。 そんな絶体絶命&ノンストップの密室サスペンスで初共演を果たした、浅井役の生田斗真とジヨンに扮した韓国出身のヤン・イクチュンを直撃!過酷な撮影の裏側を聞いた。 ■「誰でもなにかのスイッチで豹変してしまう可能性はあるんじゃないかな」(生田) ――登山中に猛吹雪で遭難し、閉ざされた山小屋で死闘を繰り広げることになる浅井とジヨンに、お2人はどのように臨まれました? 生田「浅井の過去や内面は、あまり考えずに演じました。ただ、彼はちょっと踏み外してしまったことから酷い目に遭うので、誰でもなにかのスイッチで豹変してしまう可能性はあるんじゃないかなという感覚は意識していた気がします」 ヤン「ジヨンは最初から狂人や悪人だったわけではなく、ごく平凡な人間だったのではないかと思います。そんな彼がある告白をし、秘密が明らかになったことでどのように変貌していくのか?その変化の可能性を考えながら演じました」 生田「なので僕は、アンテナをしっかり張って、隣にいるイクチュンさんの一挙手一投足の変化を察知する感覚を研ぎ澄ますようにしていて。過酷な撮影状況だったから、撮影の合間は逆に、お互いいちばんリラックスできる場所と方法で現場にいたような気がします」 ――そんなに今回の撮影は過酷だったんですか? 生田「あの山小屋の一連は栃木県の学校にセットを建て、去年の4月から5月に2週間近くかけて撮影したんですけど、暗いし、息苦しくて。ただでさえ暑いのに、僕らは雪山登山用の防寒ウェアを着ていたからすごく暑いし、朝から晩まで緊張感を持続させながらそこで2週間撮影しなければいけなかったので、それが大変でした」 ヤン「ある意味、圧縮された撮影だったので確かに大変でしたね。ただ、私が参加してきた韓国のドラマや映画は撮影に3ヶ月から6ヶ月ぐらいかけるので、2週間の撮影は『もう終わっちゃったの?』という感じもしました」 ■「なにを言っているかわからない私に、生田さんは怖い思いをされたと思います(笑)」(ヤン) ――山小屋のセットに助けられたようなことはありました? 生田「狭いセットなんですけど、2階建てで、備蓄倉庫みたいなところにハシゴで降りられるようになっているなど、いろいろな仕掛けがあったので、74分の映画を多彩なバリエーション豊かなものにすることができたような気がします。ただ、スタッフもみんなマスクしてるし、現場も実際に暗かったので、誰が誰だかわからないという難点はありましたけど(笑)」 ヤン「演じる俳優にとっては、空間的にも広くて余裕があって、動きやすいところのほうがもちろんいいと思います。ただ、ひとりの人間としてはあの狭さはキツかったけれど、本作の2人のキャラクターを表現するのには適していたと思います」 ――ヤンさんは、後半の狂気のベクトルや迫力の出し方をどのように考えて演じたんですか? ヤン「狂気や迫力のレベル調整を計算しながら演じたというより、身体のその時々の反応に従った感じです。あと10歳ぐらい若かったらあの2倍ぐらい暴れていたような気がします(笑)」 ――いえいえ、日本語と韓国語をごちゃ混ぜにしながら迫ってくるジヨンは十分怖かったです。 生田「あれは、浅井も見たことのないジヨンの姿だと思うんですよね。取り乱しているし、韓国語のところはイクチュンさんが現場で監督と相談しながら言い方を調整していて。たまになにを言っているのかわからない韓国語で叫びながらバーンって蹴ってくるから恐怖感はハンパなかった」 ヤン「それがねらいでした。最初から自分でここは日本語、ここは韓国語で、って決めていたわけではなく、浅井に聞いてほしいと思ったところは日本語で話して、ジヨンが『どうしてこんなことになったんだ?』と自問自答するところは韓国語で表現しています。生田さんは日本語の台本どおりのことを私が本当に言っているのかわからない。すごく怖い思いをされたような気がします(笑)」 ■「新しいチャレンジをイクチュンさんと一緒にできたのはすばらしい経験」(生田) ――映画の後半は血で血を洗う殺戮合戦になりますが、あの撮影はどんな感じだったのでしょう? 生田「イクチュンさんは特殊メイクをしなきゃいけなかったので、僕より数時間前にいつも現場に入っていて大変そうでしたね。でもどんなに朝早くても、2人で叫びながら壮絶なバトルを繰り広げなければいけなかったので、僕はそれがやっぱりいちばん大変でした」 ヤン「私は、身体でぶつかっていけばいいアクションはさほど大変ではありませんでした。兵役中、劇中に出てくるような斧を扱うこともありましたから。それよりも、アクションの合間合間に見えてくる感情や葛藤などを表現することのほうが難しかったです」 ――山下敦弘監督からはどんな指示が多かったですか? 生田「スリラーとかホラーって視点を変えると、ちょっと笑えるじゃないですか? 山下監督は『そこを上手くねらいたい』と仰っていて、ジヨンが『ウギャー』って言いながら階段を追いかけてくるところや首がボキってなるところは実際、怖いけれど、ちょっとおもしろい。その絶妙なところを表現されていたような気がします」 ヤン「監督は可愛らしい方でしたね(笑)。一方的に指示をするタイプでもないし、年齢も近くて、一緒に話しながら撮影ができたので、居心地もよかったです」 ――今回のようなほぼ2人芝居で、ワンシチュエーションの映画というのも珍しいと思うのですが、実際にやってみていかがでした? 生田「芝居の力だけで映画を引っ張っていかなきゃいけなかったので、自分にとっても新しい挑戦でした。そのチャレンジをイクチュンさんと一緒にできたのもすばらしい経験だったと思います」 ヤン「登場人物がたくさんいて、いろんな感情が生まれる映画と違って、本作はひとつの状況の中で極限の感情を表現しなければいけなかったので、そこがとても大変でした。逆の言い方をするなら、2人の葛藤に集中して、そこをどんどん掘り下げることができたのはよかったですね。決して簡単な作業ではなかったですが、新しい経験ができたと思っています」 生田「時間的には74分のとても観やすい映画なのに、どっと疲れるんです。内容を知っている俺でも息をするのを忘れるぐらいのめり込んでしまったから、これから観るみなさんにも映画館ですごくいい経験がしてもらえると思います」 ――撮影中のお互いの印象も教えて下さい。 生田「イクチュンさんは芝居をひとつずつ積み上げていって、本番にいちばんピークを持ってくるんですよね。そこをちゃんと計算しているというか、自分の感情をコントロールして、コントロールの制御が効いてないような芝居を構築するととろがスゴいと思いました」 ヤン「生田さんは優れた集中力を持っていて、相手の一瞬、一瞬の感情をちゃんと受けとめることにも長けた方です。私も安心して、自分の感情を思いきり彼にぶつけることができました」 ――生田さんがマキシマム ザ ホルモンと一緒に歌った、本作の主題歌「殺意vs殺意(共犯:生田斗真)」も話題になっていますね。 生田「経験のないことだったのでレコーディングのときはドキドキでした(笑)。でも、僕が尊敬する大好きなバンドのメンバーと一緒に歌えて、みんなも興奮してくれていたからよかった。山下監督の『主題歌ですべてをぶっ壊してほしい』というオーダーとも合致する仕上がりになったので、それもうれしかったですね」 ヤン「最初に聴かせてもらった時は、“生田さんはこんなにきれいな声で歌うのか?”と私も本当に驚きました」 ■「なんでも話せるから親友、というわけではない。難しいですよね」(ヤン) ――ところで、お2人にはなんでも腹を割って話せる親友はいますか? 生田「親友はいますけど、難しいですよね。なんでも話せるから親友ってことでもないし、毎日一緒にいることが親友でもないだろし。定義がいまひとつわからないところがあるかな」 ヤン「私は親友と呼べる人がいないので、できたらいいなと思います」 ――そうなんですか? ヤン「以前は本当に親しくしていた友達もいましたが、その人とも少しずつ距離ができてしまいました。ほかにも、しょっちゅうではないけれど、1、2年に1回ぐらい会う友達はいて、自分の思っていることを言い合うこともありますが、時として、ちゃんと話してくれなくて水臭いなと思うこともあります。初めにお話した親しい友人とは、久しぶりに会っても昨日も一昨日も会ったかのような感覚で、気軽になんでも言い合うことができますが、『なんでも話せるから親友なのか?』というと、そこには“?”がつくかもしれない。その感覚も10代や20代の時とは変化してくると思うので、難しい。そこはお金に対する価値観にも似ているような気がします」 ――劇中の浅井とジヨンはちょっとしたことがきっかけで大変な目に遭いますが、お2人がこれまでの人生の中で味わった最大のピンチと、それをどうやって回避したのかを言える範囲で教えてください。 ヤン「トイレがすぐに見つからなくて、『トイレ、トイレ!』って慌てて探すことはひと月に1回ぐらいはありますね(笑)」 生田「僕はよく物を失くします。この前もありました。ゴルフをやって帰る時に、車の鍵が見つからなくて。あったと思ったら今度は財布がない。でも、それも出てきてなんとか帰ってきたら、家の鍵までないから本当に嫌になりました。結局鍵もあったから事なきを得たけれど、あの時は『俺はなんのために生きているんだろう?』っていう気持ちになりましたよ(笑)」 ヤン「僕は韓国のソウルで小さなお店をやっているのですが、日本に来る前に製氷機が壊れてしまったんです。お客さんに冷たいものが出せなくなるからいろいろ手を尽くしたんだけど、直らない。でも、飛行機の時間が迫っていたから、そのまま店を出るしかなくて。日本に着いてから店に電話したら、スタッフが『直りました』と言ったので、ホッとしましたね(笑)」 取材・文/イソガイマサト