「5年以上生きる患者をほぼ見たことがなかった」膵臓がんへの挑戦
怖いがんの代表である「膵臓がん」の早期発見で大きな実績をあげる、JA尾道総合病院副院長の花田敬士氏が『命を守る「すい臓がん」の新常識』(日経BP)を刊行。「不治の病」に挑戦する道のりを語ります。 【関連画像】EUSでは、内視鏡の先端から超音波を出し、胃や十二指腸の壁越しに膵臓を観察する(『命を守る「すい臓がん」の新常識』より) 5年生存率がわずか8.5%しかない「膵臓がん」。政治家や芸能人などがこのがんで亡くなると大きなニュースとなり、最近は余命わずかな膵臓がん患者の主人公が登場するTVドラマが放送されたり、膵臓がんに罹患したことを公表する著名人もいらっしゃいます。 メディアで語られる膵臓がんのイメージは「不治の病」でしょう。膵臓がんの根治が期待できる治療は外科手術ですが、がんが見つかったときに手術ができない段階だったケースが多いために、膵臓がんの5年生存率が低くなっているという事情があります。 しかし、それに挑戦したのが「尾道方式」でした。膵臓がんの危険因子をもつ方に地域の診療所やクリニックで腹部エコー(超音波)などの検査を受けていただき、疑わしい症状が見られた場合には積極的に中核病院で詳しい検査を行うことで早期発見を実現し、5年生存率を約20%にまで改善したのです。 ●開業医に怒られながら始めた早期診断 今では、膵臓がんをいち早く見つけるためのプロジェクトが、尾道だけでなく広島県全域をはじめ、大阪や横浜などの都市部や、山梨県、三重県、和歌山県など、全国50カ所へと広がっています。 ただ、尾道における膵臓がんの早期発見についても、最初から順風満帆に進んだわけではありませんでした。 私は、1997年に生まれ故郷の尾道に戻り、なるべく早期の膵臓がんを見つけたくて、赴任当初から地元の開業医の先生方に声をかけていきました。 「腹部エコー(超音波)検査で疑問のある患者さんはどんどんご紹介ください。私がERCP(内視鏡的逆行性胆道膵管造影)を行ってがん細胞の証拠をつかみます」 ERCPとは、口から内視鏡を入れ、膵臓のなかで膵液が流れる管である「膵管」の内部に細い管を挿入し、造影剤を注入したのちに膵管をエックス線で撮影する方法です。このとき、多くの場合、膵管の撮影後に膵液を採取して細胞の診断を行います。 当時はまだMRI(磁気共鳴画像)検査の解像度が悪かったので、微細ながんを診断しようと思ったら、腹部エコーの検査に引っかかった人を対象にしてCT(コンピューター断層撮影)検査を行い、その次の段階としてはもう、ERCPの検査しかありませんでした。 しかしERCPは、いくら注意を払っても一定の確率で合併症を起こしてしまう検査です。早期の膵臓がんの診断に非常に有用な検査ではありますが、急性膵炎などが一定の確率(0.7~11.8%)で発生してしまうのです。 自覚症状が何もないのに検査入院させられて、カメラを体内に放り込まれて、終わってみたらERCPの合併症で急性膵炎を起こして2週間も大変な思いをした……。なかにはそんな患者さんも出てきます。 患者さんのご心配、苦情、文句は当然でしょう。開業医の先生からお叱りを受けたのも、一度や二度ではありませんでした。