インモラルな役も「あくまでもひとりの人間」 福士蒼汰が『湖の女たち』で演じた“考えない”芝居
監督には「今、わかったでしょ」と
──考え抜いた演技がNGだったということですか? はい。準備して作り上げてくるのは大事だけど、本番の瞬間はそれを一度全部忘れて演じてほしい、と伝えられました。 また、セリフに関しては「どれだけ時間がかかってもいいので、自分が思うタイミングで発してほしい」と助言を受けて。 これまで自分が作り上げてきたスタイルとは真逆だったので、最初はかなり戸惑いました。でも、徐々に監督の伝えたいことが感覚でつかめるようになってきて、その場での感情を大事にしようと思えるようになったんです。 ──「何も考えずに演技する」ほうが難しいのではないでしょうか。 もちろん、事前に準備はするんです。でも、その準備したものを現場で一度捨て去ることで、「何も考えずに」お芝居ができます。撮影を重ねていくうちに、「監督がおっしゃっているのは、この感覚のことかな」と腑に落ちる瞬間があって。「考えないお芝居」がつかめた瞬間、監督には「今、わかったでしょ」と見抜かれていました! ──では、役作りはどのように進めたのですか? いわゆる「役作り」はしていません。僕が「濱中圭介」の役作りをすると、どうしても圭介のサディスティックな面を出そうとしてしまうと思うんです。でも、実際の圭介は自分のそういう面を出そうと思って行動しているわけではないですよね。だから、僕がお芝居をすればするほど、そこにウソが生じて「サディスティックなお芝居をしている」ように見えてしまう。 監督はそれがわかっていたから、考えたお芝居をするなと言ってくださったのだと思います。むしろ圭介を演じる上で考える必要はないと教えてくださったのだと、今となっては理解しています。 それは僕自身もなんとなく気がついていたのですが、わかっていてもやっぱり少しはお芝居をしたほうがいいのかなと思ってしまうもので。それに負けて考えたお芝居をするとすぐ監督は察知して。その繰り返しのなかで、少しずつ「濱中圭介」ができあがっていった、と感じています。 ──福士さんが「濱中圭介」をつかみ取る前と後で、監督からの指示は変わりましたか? 「濱中圭介」をつかみ取る前は何度もテイクを重ねることもありましたが、つかみ取った後はほぼ一発で。「心から出るセリフとお芝居なら何をやってもOK」という監督の演出を身に染み込ませることができたのだと思います。 今思えば、最初の数日間は、脳みそを通して頭で考えたお芝居をしていたんです。だから、セリフの言い回しを考えたり、こういう表情でやってみようと考えたりしてしまって、大森監督から必ず「もう一回やってみよう」と言われてしまったのだと思います。 「全部捨てていいから、脳みそを通さないで、脊髄反射でやってみよう」というアドバイスを理解してから、自分でも自分が変わったと実感できました。 大森監督はおそらく、「今、脳を通ったかどうか」を見ていたのではないかと思います。役者が感覚的にやっているのか、脳で考えてやっているのかを見極めて、それ以外は役者に託してくれていたように感じます。