「ヴェイン」は“第二の家”で素をさらけ出す 「かっこつけない」等身大のショー
ブランドコンセプトである「構造表現主義(structural expressionism)」も忘れない。洋服の構造をデザインするアイテムには、ストラップが左右の身頃間を横断するジャケットや、膝部分をカットオフして切り替えたジーンズやスエットパンツ、ドローコードで裾を絞り、形を変えるミリタリーパンツが並ぶ。トレンチコートのウエスト下部分のペンシルスカートや、ラップスカートタイプのバッグで新しい洋服の可能性を提案した。
等身大のクリエイション
「ドーンピンクは始まりの色」
榎本デザイナーは「『アタッチメント』を手掛け出してしばらくは、キャパオーバーになっていたが、最近は心の余裕が出てきた」といい、家族や友人と過ごす時間からインスピレーションを得たディテールも落とし込んでいる。例えば知人と開催したサッカーイベントの思い出を、1990年代のサッカーユニホームをサンプリングしたレースアップシャツで表現したほか、子どもを保育園に迎えに行く際に、多摩川から見える夕焼けを模したピンクカラーで再現。「これは“朝焼け”色でもある。“始まり”の意味を込め、『ドーンピンク』と名付けた」。
榎本デザイナーの「自由なスタイリングで」というオーダーには、スタイリストの髙田勇人が応えた。ニットトップスをモデルの体に巻きつけたり、くるぶし近くまでマフラーを垂らしたり。レザー地のストールを固結びして作った大きなコブに至っては、「僕らのノリ」と笑う。モデルの個性をスタイリングに盛り込み、同じアイテムでも複数の見え方が生まれるように演出した。
榎本デザイナーがフィナーレに登場し、小走りで会場を後にして間もなく、照明と音楽が突然落とされる。「初めて会う人とあいさつをした後、『……で、これからどうする?』と次の会話を切り出す緊張感を表現したかった」。19年のブランドスタートから5年目を迎え、新たに始めた“会話”には、デザイナーの「かっこつけない」等身大なクリエイションが詰まっている。