聞いていて思わず「ワクワク」してしまう…「気難しい」社内のトップ営業マンが重視する「お客様」との向き合い方
魔法の言葉「そうですよね」
店に着くと、石元さんはいつもの穏やかな口調で相手に話しかけます。 「今日は、いいご返事が聞けそうな感じですね」 「この自販機、結構するなぁ。おまけにあんたのところは卸値も高いし、こりゃ全然利益なんか出そうにないわなぁ」と先方はつれない返事。 おや、このやり取り、どこかで見たぞ。すると石元さんはこう応じました。 「そうですね。自販機自体は決して安くはないですね。でも、人を雇うとなるとこの金額では済まないですよね。他にもいろいろと気を配らなければならないことも出てくるので大変です。でも、自販機は一言も文句も言わずに24時間働いてくれますし……」 「そんなことはわかっているよ!」 先方は強い口調で切り返してきます。 「そうですよね。おまけに商品の卸値も他社よりも高いんだったら、そりゃ躊躇しますよね。そこをなんとかしないと辛いですよね」と石元さんは柔らかく応えます。
何気ないやり取りに潜む妙技
そのやり取りを横から見ているとあることに気づきます。石元さんは相手の言葉をはね返さず、いつの間にか相手の「なんとかならないか」という悩みを一緒に解決するパートナーのような存在になっているのです。 先日の先輩のとった行動は相手の意見に反論を述べ、いかにこちらの考える正当性を伝えるのかに終始しており、主張と主張がぶつかり合う状況は、傍から見ていると正面から向かい合う戦いのようにも感じます。 石元さんの商談にはそのぶつかり合いがまったく感じられません。「なるほど」と相手の言葉にうなずきながら、「じゃあ、ここが気がかりなんですね」と親身になって話しかけます。 「自販機は確かに高い買い物ですが、今後、何年もお店の優秀な販売員となり、さらにこの機能は……」と相手の懸念点に一つひとつ丁寧に応え、それを上回る利点を物語のように聞かせてくれます。
相手が「ワクワクする」ように話す
「確かに商品は他よりも高いですが、どんなに利幅があっても肝心の商品が売れなくては意味がありません。もっと売れるように私たちも一緒になって努力しています」 こんなふうに、聞いていてワクワクするような話をしてくれるのです。 契約書に捺印してもらい、帰りの道すがら、石元さんが私に話しかけます。 「営業は売っているんじゃない。買っていただいているんだ。『買う・買わない』を決めるのはこちらじゃない、先方だ。そもそも自分を言い負かす人から商品を買おうとは思わない。お前だってそうだろう。自分のことを思ってくれる相手だから、買おうという気になるんだ。俺たちはナンバーワンの製品を扱っているということと、会社の最前線の営業を担っているというプライドは持っていなくちゃいけない。でも、ここだけは拘っている点だから譲れないというような安っぽいプライドを営業現場に持ってくるんじゃない。俺のプライドはそこにはない」 この日に学んだ「プライドをどこに置くのか」という考えは、その後の私のキャリアを歩むうえで大きな力になっています。 『相手と共に押し黙る…「典型的な営業」とはかけ離れた「不器用営業マン」が次々と契約を勝ち取った秘訣』へ続く
山岡 彰彦(株式会社アクセルレイト21 代表取締役社長)