タグ・ホイヤー「カレラ」、勝利への周回──オリジナルデザインを現代解釈したゴールドのカレラは269万5000円!
「カレラ」誕生の60周年を祝うべく、タグ・ホイヤーは聖杯を復活させた。それはフェラーリのニキ・ラウダ、ライアン・ゴズリング演じるケンによって有名になったゴールドケースのカレラだ。キャム・ウルフが解説する。 【写真を見る】ゴールドの文字盤を拡大チェック!(全9枚)
タグ・ホイヤー「カレラ」、ゴールドで復活
1971年、タグ・ホイヤー創業者のひ孫にあたるジャック・ホイヤーCEO(当時)は、スイス本社からフェラーリの本拠地であるイタリアのマラネッロへと車を走らせた。エンツォ・フェラーリのオフィスに直行した彼は、ある取引を提案した。フェラーリのF1チームのマシンやユニフォームに広告を露出する代わりに、タグ・ホイヤーは最先端の計時装置を無料提供する。さらに、フェラーリのドライバーたちに、レーサーたちがラップタイムを計るために愛用していたタグ・ホイヤーのアイコニックなステンレススティール製クロノグ ラフ、カレラのエレガントなバリエーションを提供する、というものだった。 メキシコで開催された悪名高い、そして危険なラリーレースから名付けられた「カレラ」には、自動車の歴史が息づいている。そしてとりわけ、1158CHN-CHは高級車メーカーにとって特に魅力的なモデルだった。CHはシャンパン・ダイヤル、Nはノワール・サブダイヤルを示すこのモデルはケースが18Kゴールド製だったのだ。 このカレラは、ジャッキー・イクス、ニキ・ラウダ、クレイ・レガツォーニなど、フェラーリの伝説的なドライバーたちに選ばれる時計となった。彼らの時計は、単なる見世物ではなかった。 タグ・ホイヤーを専門に扱うウェブサイト「OnTheDash」の創設者であるジェフ・スタインは言う。「ドライバーたちは、実際に時計を腕に巻いたのだ」。今年91歳になるジャック・ホイヤーもこの計画は実を結んだ、と語る。「すぐに売り上げが伸びましたし、こんなに売れるとは驚きだった」 半世紀以上経った今でも、フェラー リの黄金時代を築いたドライバーのサポートは、カレラに恩恵をもたらした。CHNはタグ・ホイヤーの代表作のひとつであり、最近では映画『バービー』でケンの手首にカメオ出演も果たした。オリジナルモデルはわずか数百本しか製造されなかったが、今では少し入手しやすくなった。というのも、カレラ誕生60周年にあたり、CHNを復刻するだけでなく(新モデルは2万1500ドルだ)、パンダダイヤルやカラフルなスキッパーなど、アーカイブから他の名品をも復刻したのだ。時計愛好家たちがロレックス「コスモグラフ デイトナ」のようなスポーツウォッチの虜になって久しいが、タグ・ホイヤーもその地位を確立しつつある。 新しいカレラは、1971年のオリジナルとほぼ同じという、コレクターの望み通りの外観を備えている。しかしながら、時計ブランドにとって歴史とは諸刃の剣だ。タグ・ホイヤーのヘリテージ・ディレクターであるニコラス・ビュビックが語るように、クラシックのリメイクとは挑戦である。新しいバ ージョンには、追加された3つ目のサブダイヤルなど、口うるさいコレクターたちが注文を付けたくなるようなディテールを含む。しかし、多くの人は、3万ドル以上で落札されることが多い希少なカレラを、最終的に手にする機会に大喜びするだろう。 OnTheDashのジェフ・スタインによれば、1158CHNはタグ・ホイヤーにおける「聖杯」のひとつに数えられている。「CHNの所有者たちとは、クラブのメンバーのようなものだ」。筆者がもっとも入会したいものであり、もし筆者に時計の世界のフェアリー・ゴッドマザーがいるならば、私は1158CHNをコレクションに加えるだろう。CHNとは、レーシングカーのドライバーが着用する時計でありながらも、そしてそれらがスティール製ケースを持っていた時代に、金無垢で作られたという変わり種だった。 2023年、世界で最もクールな時計とは、ラグジュアリーとスポーツの両方の枠を満たすものとなった。オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」やパテック フィリップの「ノーチラス」といったモデルを考えるならば、フェラーリによって有名になった豪奢なゴールドケースのカレラほど、理にかなったものはないのである。 TAG HEUER タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ 18K 3N YG製ケース×パンチング加工のブラックカーフレザーストラップ、自動巻き、39mm径、269万5000円。 TRANSLATION BY MASAYUKI HIROTA PHOTOGRAPH BY TAG HEUER