民間初の月面着陸を目指す日本の宇宙ベンチャー企業・ispaceのCEO・袴田武史を直撃!!
アポロ計画の終了から半世紀を経て、再び活発化し始めた各国の月面探査競争。今年NASA主導のアルテミス計画では月への有人飛行を予定しているし、JAXAの小型月着陸実証機・SLIMも、早ければ1月中に月面着陸に挑戦する。 【写真】ミッション1のランダー(月着陸船)がとらえた月面と地球ほか 一方で、イーロン・マスクのスペースXなど宇宙ベンチャー企業の存在感も増している。そんな月面探査レースの先頭をひた走る宇宙ベンチャー企業が、なんと日本にあった。昨年の失敗、そして今年の再挑戦について、代表取締役CEOの袴田武史(はかまだ・たけし)氏を直撃した。 * * * ■民間初の月面着陸、再挑戦へ! 昨年、インドの無人月探査機チャンドラヤーン3号が世界で初めて「月の南極」への着陸に成功するなど、アポロ計画の終了から半世紀を経て、再び活発化し始めた各国の「月面探査」競争。 今年はアメリカのNASA(アメリカ航空宇宙局)が主導する国際プロジェクト「アルテミス計画」の一環としてアルテミス2号が打ち上げられ、4人のクルーを乗せた新開発の宇宙船・オリオンが月に向かう有人飛行を行なう予定だ。 また、日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)が「精度100m以内のピンポイント着陸」を目指した小型月着陸実証機・SLIMも、早ければ1月20日に月面着陸に挑戦するという。 一方、イーロン・マスク率いる「スペースX」や、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスが立ち上げた「ブルー・オリジン」などの民間宇宙ベンチャー企業も、アルテミス計画などで使われる独自のロケットや「ランダー」と呼ばれる月着陸船の開発を着々と進めている。 そうした中、今年、注目したいのが、民間企業として初の月面着陸に挑む日本の宇宙ベンチャー企業、ispaceだ。ispaceの創業者でCEOの袴田武史氏はこう語る。 「私たちが取り組んでいる民間の月面探査プログラム『HAKUTO-R』のミッション2として、今年の冬に、ランダー『RESILIENCE』(「再起、復活」の意)が月面への着陸に挑む予定で、現在その準備を進めています。 今回は子会社のispace Europeが開発したマイクロローバー(小型月面探査車)も搭載し、月面の砂の採取を行なう計画です」 ちなみに、ispaceといえば、昨年4月に民間企業としては世界初の月面着陸を目指したミッション1が着陸の最終段階で失敗し、巨額の費用をかけた月着陸船が月面に衝突するという苦い過去がある。 今年のミッション2でも、基本的には前回と同じ仕様のシリーズのランダーを使用するというが、今回は本当に大丈夫なのだろうか? 「ミッション1が失敗に終わった直接の原因は、ランダーのシステムが高度を誤認識したことだとわかりました。 正確に言うと、着陸船のセンサー自体は高度を正しく認識していたのですが、着陸の前、高さが5㎞ほどある月のクレーターの縁の上を通った際に、高度が一気に3㎞も増えたというデータを、着陸船のプログラムが『エラー』だと判断して、センサーのデータを活用することをやめてしまったんです。 その結果、実際には着陸船から月面まで数㎞の距離が残っていたのに、ランダーのシステムが着陸の最終段階に入ったと誤認識して、降下速度を落とすために着陸用スラスターを噴射し続けた。しかし、当然なかなか月面までたどり着かず、上空で燃料が尽きてしまったのです。 実はもうひとつ〝遠因〟があって、それはわれわれが計画の途中で、月の着陸目標地点を変更したことでした。そのほうがミッションとしての価値が高くなると判断したのですが、その際、着陸船がクレーターの縁の上空を通過することの影響を見過ごしていた。それは開発管理面のミスで、ミッション1の失敗から学んだ大きな教訓です」