ジョー・シュミット氏

【ベテラン記者コラム】ラグビー・オーストラリア代表、ワラビーズの〝長期低落傾向〟が止まらない。日本時間9月8日の南半球4カ国対抗、敵地でのアルゼンチン戦に27－67で大敗。67失点はワラビーズのテストマッチでのワースト記録、40点差での敗戦はこれが41度目の対戦だったアルゼンチン相手のワースト記録となってしまった。 今大会はこれで1勝3敗。残るニュージーランドとの2試合ではよほど奮起しないと、2年連続の〝ウッドゥン・スプーン〟（最下位）となってしまうだろう。 エディー・ジョーンズ・現日本代表ヘッドコーチ（HC）が率いていた昨秋のW杯フランス大会は、史上初めて1次リーグで敗退する憂き目にあった。その後を受け、2019年W杯日本大会でアイルランドの指揮官として日本とも戦ったニュージーランド出身のジョー・シュミット氏がHCに就いた。7月のテストマッチではフランスで苦杯を喫したウェールズを2タテし、ジョージアにも快勝して3戦全勝。名将の指揮で持ち直したように見えていたが…。 オーストラリアのラグビーをひとことで言うと「知恵を絞って勝つ」というもの。1995年にラグビーがプロ化にかじを切り、競技としてめまぐるしく変わっていったころ、新たな戦術はオーストラリアから伝わってくるものが多かった。特にディフェンスで、これまでマンマークが基本だったものを、一人一人の守るエリアを重視したゾーンディフェンスのような理論を構築したのもオーストラリアだった。 さらに過去を振り返れば、1984年の北半球遠征ではスーパースターのSOマーク・エラを軸に、イングランドに19－3、スコットランドに37－12、ウェールズに28－9、アイルランドに16－9と、英4協会を総なめにした。この遠征の最終戦、バーバリアンズとの一戦では、PKを得たときにアメリカンフットボールのようにFWが横一線に並び、その後ろのBKもアメフットのような並び方。マーク・エラがQBのようにスナップされたボールを受け、サインプレーを見せて（さすがに前へは投げなかった）観客をおおいに沸かせた。この遠征を総集したVHSビデオを見たことがあるが、確かに楽しかった。W杯でも2度の優勝に輝き、世界をリードする時代もあったのだ。 実はオーストラリアでは、15人制のユニオンラグビーの人気はさほど高くない。NO・1は楕円のスタジアムで戦うオーストラリアン・フットボール、続いて13人制のリーグラグビーで、ユニオンラグビーは3番手にいる。シュミットHCは就任時、「ワラビーズが困難な時期を乗り越えてきたことは承知している。前進する道を築く手助けをしたいと思っている」と述べた。21、28日の宿敵・ニュージーランド戦で、〝前進〟したさまを見せることができるだろうか。（田中浩）