【密着】マダガスカル 現地のカゴバッグに一目惚れし、ブランドを立ち上げた息子へ届ける両親の想い
アフリカ大陸南東の島国・マダガスカル共和国でハンドメイドバッグブランドを経営する吉田泰己さん(30)へ、広島県で暮らす父・浩之さん(62)、母・明美さん(62)が届けたおもいとは―。
現地の伝統に日本の精密さを加え、庶民の生活雑貨を本物のバッグに昇華
インフラ整備の会社に就職し、妻・彩虹(あやこ)さんと共にマダガスカルに駐在していた泰己さんは、3年ほど前、任期が終わり帰国する時に退職。カゴバッグのブランド「AMPIANA+(アンピアーナ)」を立ち上げ、マダガスカルに移住した。第2の都市・トアマシナの中心部から少し離れた住宅街にある自宅では、常に50人から80人ほどの職人が働き、手作業でカゴバッグを編み上げている。 起業のきっかけは、現地で日常的に使われている素朴で可愛いカゴバッグに一目惚れしたこと。そして、市場で買った野菜をそのまま入れたりするようなバッグの機能性や耐久性、スタイリングを突き詰めて高品質なものを製作すれば世界のファッションシーンで受け入れられると考えたのだった。
カゴバッグの素材は、マダガスカル原産である天然のラフィア椰子。強度が高く、柔軟性や防水性にも優れた世界のハイブランドも使用する高級素材だ。看板商品は「マルシェバッグ」で、ラフィアを編んで30~50メートルの1本のロープを作り、カバンの形に縫い合わせていく。ロープの継ぎ目が見えない繋ぎ合わせ方は、元々マダガスカルにはなかった泰己さんら独自の技法。現地の伝統に日本の精密さを加え、カゴバッグを庶民の生活雑貨から本物のバッグに昇華させたのだった。 会社を立ち上げたときは、夫婦と職人2人だけの船出だった。今では職人も増え、バッグ以外にも様々な商品を展開。ほとんどを日本に輸出し、インターネットなどで販売している。最初は30個ほどだった商品の出荷数も、今では3000個強に。年間1000個ずつ増やすのが目標だ。
大学時代のボランティア活動の経験から、職人たちを積極的にサポート
毎日仕事が始まるのは、朝6時過ぎ。職人の給料は成果報酬で、稼ぎたい人は早朝から出勤してどんどん作業を進める。深刻な貧困に悩まされているマダガスカル。泰己さんは働き口がないシングルマザーを雇用するなど、積極的に職人たちのサポートをしているという。そんなサポートを行う気持ちが芽生えたのは、大学生の時。兄に誘われ参加したフィリピンでのボランティア活動で初めて貧困に苦しむ人々を目の当たりにし、大きな衝撃を受けた泰己さんは帰国後、ボランティア団体を設立。東南アジアを中心に精力的に活動した。だがボランティアは支援が一方通行になりがち。長期的に自立を支えるためにも、自分の事業を持って現地の人たちを雇用し、彼らに還元していきたい…そんな志を持って、彩虹さんと共に会社を大きく成長させようとしている。 また自身が起業したことによって、会社を経営する父・浩之さんに対する想いにも変化が生まれたといい、今では仕事の相談をすることも。浩之さんは、「今の彼は昔と全然違う。中学、高校の頃は荒れていてどうしようもない人間だったのが、よくぞここまで成長してくれたとびっくりです」と明かし、経営者として奮闘する姿を喜ぶ。一方、母・明美さんは「やっぱり彩虹ちゃんのサポートがないと。ああ見えて泰己は時々メンタルが弱くなるので、彩虹ちゃんがいないと成り立って行かなかったと思います」と家族の支えに感謝する。