【この冬、佐渡へ旅したい】氷菓子のようなガラス器を自分へのお土産に
世界農業遺産にも認定され、海の幸、大地の稔、森の恵みに満ちた新潟県の佐渡島。移住者が紡ぐカルチャーと地場の文化が、互いの個性をリスペクトしながら隣り合っていた。 【写真】詩情に満ちた「Galerie空水(くうすい)」のガラス器 旅先では普段とは異なる、内なる扉が開くのだろうか。ギャラリーでいつもと趣向の異なる器に心が動いたり、ふと立ち寄ったブックストアで思いがけない名著を発見したり……。今回は、旅から戻った日常に、優しい刺激をもたらす自分への贈り物を探しに出かけた。
《BUY》「Galerie空水(くうすい)」 氷菓子のような詩情に満ちたガラス器
旅の余韻を日々の暮らしで感じられる工芸品に出合いたい。そんな話を「MANOCAMINO(マノカミーノ)」での取材中にささやいたら、近所に素敵なギャラリーがあると教えてくれた。 まずは外から覗いてみようと出向くと、日本家屋をリノベーションしたシャビーシックな空間に静謐な佇まいのガラス器が端正に並んでいた。手描きの看板にも、店主のセンスが感じられる。 俄然、個人的な買い物モードにスイッチが入り、足を踏み入れると奥からギャラリーを手がけるガラス作家の戸田かおりさんが現れる。 普段は制作に集中するため店の奥の工房で仕事をしているが、訪ねた日は土曜日ということもあり、偶然ギャラリーがオープンしていた。突然の撮影依頼を詫びながらも、幸運にも取材を引き受けていただき、その美しい作品が生まれる物語を伺うことができた。
独特のニュアンスカラーを纏った半透明のガラス器は、パート・ド・ヴェールという技法が用いられている。ガラスの粉を鋳型に詰めて、型のまま窯の中で熔かす鋳造成形だ。 細かく粉砕したガラスに色ガラスの粉を混ぜて生地をつくるため、豊富な色彩や美しいグラデーションが特徴。さらに、焼成中にできる空気の泡を調整することでガラスの透明度を変容させることができ、パート・ド・ヴェールならではの柔らかな光が生まれるという。 技術的な話を伺い、再び作品を眺めると、スモーキーな半透明のガラスに日本海に囲まれた佐渡島特有の雰囲気が感じられた。それを戸田さんは、「外側から水底を覗き込んだような色彩美」と表現する。 パート・ド・ヴェールというと、ランプシェードやフラワーベースなど、装飾性の高いアイテムが多いが、「身近に感じられる素材の一つとして、日常使いのガラス器を紹介していきたい」と、創作の根底にある想いを語ってくれた。 ヴェールに包まれたような浮遊感のある作品の数々は、佐渡で目にした花や空といった自然を映したようでもあり、見る者の記憶に眠っていた深層心理と重なるよう。すりガラス越しにこの世界を眺めたら、悲しみも憂いも柔らかな光に包まれるのではないだろうか、そうして人生を歩んでいくことで、穏やかな岸辺に辿り着くのではないだろうか。そんな事を考えながら、自分への贈り物として求めたガラスのオブジェを、日々眺めている。 「Galerie空水(くうすい)」 住所:新潟県佐渡市真野新町425 https://kaoritoda.jimdofree.com/ BY TAKAKO KABASAWA 樺澤貴子(かばさわ・たかこ) クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。