合併で消えた幻の酒「いすゞ美人」、60年ぶり復活へ…残っていた「おけ」から酵母を採取
宮崎県美郷町の北郷地区で1968年に製造を終えた日本酒「いすゞ美人」を約60年ぶりに復活させるプロジェクトが3年目を迎えた。8日は酒の製造工程の一つである「酒母(しゅぼ)」づくりが延岡市で行われた。作業が順調に進めば、2月に製品が完成する予定だ。(尾谷謙一郎)
町によると、いすゞ美人は同地区の「甲斐酒店」の前身の綿屋酒場で1930年に「いすゞ川」の銘柄で製造を開始。地元で親しまれてきたが、68年に大分県の酒造会社と合併したのを機に製造を終えた。
当時の味や香りを知る人は少なく、「幻の酒」を新たな特産品につなげようと町や町商工会の渡会実・事務局長が復活を企画。県や宮崎大、JAなどを加えて2022年夏に復活委員会を発足させた。
甲斐酒店の酒蔵に保存されていた帳簿などを参考に、今は栽培されていない酒米「瑞豊(ずいほう)」の栽培に取り組んだほか、酒蔵に残っていたおけやひしゃくから酵母を採取するなどした。
酒のもとになる酒母づくりは、仕込み作業の中で重要な工程とされる。県内唯一の清酒メーカーの千徳酒造(延岡市)で行われた作業では、蒸した瑞豊に水や麹(こうじ)などが入ったタンクを蔵人が慎重にかき混ぜた。2月中旬に初搾りを行い、4合瓶で約1500本を製造し、2月20日から同町で行われる宇納間地蔵大祭で先行販売する予定。
作業を見守った甲斐酒店の店主、甲斐文代さん(75)は「多くの人のおかげでここまで来ることができた。復活したお酒をまちおこしにつなげたい」と話した。