【#佐藤優のシン世界地図探索㊺】シン東京地図図鑑<1>「勝ち組男子の本当の姿」
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT OpenSourceINTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく! * * * 世界が劇的に動き続けるなか、いまの日本とその首都・東京をとらえるための素晴らしい教科書がある。 ひとつめが雑誌「東京カレンダー」の公式サイトにて連載されていた『東京男子図鑑』と『東京女子図鑑』。いずれも連続ドラマ化され、今ではネットでも視聴可能である。 そしてもうひとつは2022年に発売され、今もベストセラーとなっている小説『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(著:麻布競馬場 集英社刊)だ。 今回より数回にわたり、シン世界を探索すべく、足元の"シン東京"を読み解く短期集中連載を開始できればと思う。ストーリーのネタバレにはご注意を。ただ、この教科書を読みこめば読み込むほど、痛いほど東京が分かってしまうのです。 ――ドラマ『東京男子図鑑』の主人公・翔太は、千葉県浦安市の公立高校でサッカー部に所属。そして、慶應大学を卒業後は一流商社に就職して、20代で年収1000万円を達成しています。やはり彼は、勝ち組ですか? 佐藤 勝ち組でしょう。日本人の平均年収は461万円で、その倍以上の差ですからね。さらにこの主人公の男性が通うのは、原作では慶應のなかでも老舗の法学部です。難関学部ですから、記憶力と情報処理能力は高いはずですよ。 またサッカー部に入っていたということは、高校一年から予備校に通っているようなタイプとも違います。つまり受験に強く、コミュ力も高いはずです。最初から思いっきり勝ち組の素質を持っています。 ――しかし、ドラマでは女性たちに「あの人、中身がないのよね」と言われ、フラれることが多々ありました。 佐藤 要するに「あの性格はちょっと無理」という感じになるわけですね。それが一番露呈したのは、同じ商社に勤める鉄道オタクの同期が泥酔して、主人公の家に来たシーンでした。その時その同期が「お前は自分以外の全員を馬鹿にしてる。なめるんじゃない」と激怒しました。 まさにそこが主人公の本質です。「部活してなきゃ、東大入れたよ」くらいの感覚で、皆を馬鹿にしてなめています。ただ、商社のなかでの業績は良いものの、赴任となれば"出世頭"といわれるシンガポール支店には行けない。人間は総合力だということが分かっていないんですよね。組織人になるということは、歯車になることですから。 シリーズの終盤に「勝ち負けじゃない。負けないからね」というセリフがありましたが、負けない時は強いけど、負けがはっきりするとすぐに折れるんですよ。 ――それはなぜですか? 佐藤 「俺は特別な人間だ」と他者に認めて欲しいからですよね。 ――一方で、その鉄道オタクの同期はシンガポール支店に行きます。しかし、昔の商社はロンドンやNYへ行くことが「栄転」でした。 佐藤 それは前回の連載でも触れた「グローバルサウスの逆襲」に繋がります。その力が強くなっているためです。そしていま、グローバルサウスの窓口はシンガポールですからね。そういう意味でもよく取材しているなと感じます。 ――そういえば東京カレンダー(以下、東カレ)は婚活アプリ(「東カレデート」)もやっていますよね。 佐藤 参加できる年収1000万円以上の人は、それを証明する確定申告書のコピーが必要になります。男性は独身を証明するため、住民票のコピーの提出が必須です。 ――そのような膨大な情報があると......。 佐藤 そう、膨大な個人情報を持っているんですよ。だから、本当にリアリティが強いのです。 ――佐藤さんが外交官としてモスクワにいた際に、多くの商社マンを見ていることかと思いますが、本当に出来る商社マンはこのドラマの中では誰なんですか?