認知症になった人は睡眠時の"目の動き"が違う…60歳超健常者の12年後の追跡調査で判明「脳と睡眠の血流関係」
■「寝なきゃ」と思うからあなたは眠れない 睡眠スイッチを簡単にオンにできない現段階では、「なぜ眠れないのか」その要因を探って、要因に合わせた改善メソッドを実践してみることが大事となる。ただし、どれを実践するにおいても重要なのは、プレッシャーから解放されることだ。多くの人は「眠らなければいけない」という思い込みに囚われている。「仕事のパフォーマンスが落ちるのではないか」「健康を害するのではないか」という不安から「早く眠らなければ」と思い、かえって眠れなくなっているのだ。それが不眠の原因になることもある。 「“眠らなければいけない”という思い込みを手放すことで、反対に眠れるようになるのです」(川野氏) そのために川野氏は2つのポイントを重視している。1つは正しい医療情報を知ることだ。 「自然な眠りを誘う作用のあるメラトニンの分泌は60歳を過ぎるとぐっと減るので、入眠しにくくなりますし中途覚醒も起きやすくなります」(同) 若いときのようにぐっすり眠れない、夜中に目が覚めてしまうのは自然なこと。加齢とともに起こる体の変化として受け入れて、悩みを手放していくことが大切だという。睡眠時間が足りなければ、少し早めに眠るようにしたり、昼寝で補えばいい。 もう1つは、マインドフルネス。実際には試しても効果が実感できず、諦めてしまう人も多いという。 「実は、活用の仕方が問題で効果が出ないことも多いのです」(同) その最たる例は、“眠れないときだけ”やってみること。「眠るためにマインドフルネスをやってみようか」と考える時点で眠りに執着しているからだ。マインドフルネスは2~3カ月続けるうちに、「眠らなければいけない」という執着を手放すことができて、自然と眠れるようになるのだ。 マインドフルネスを実践する際には、何かに集中することで、思考の量を減らすことが重要だという。さまざまな考えが次々と浮かぶ状態は「モンキーマインド」と呼ばれる。猿が頭の中で跳びまわるような状態だ。脳が雑念に占拠されてしまう。モンキーマインドの状態から抜け出すには、一点に集中する習慣を身に付けることが有効だが、その方法の一つがマインドフルネスというわけだ。 また、睡眠の問題を感じている人は「これを実践すればぐっすり眠れるようになる」という即効性のある方法を求めてしまいがちだが、「そのスタンスこそが睡眠には逆効果」と川野氏は指摘する。「15時以降はカフェインを摂らない」など、すぐに効果が期待できるものもあるが、即効性のあるものはすぐに効果が失われてしまう。 「マインドフルネスは2~3カ月以上、気長に続けることが必要ですが、眠れないという不安を手放すことで、継続的に質のよい睡眠を得ることができます」(川野氏) 眠れないのは、睡眠自体に問題があるのではなく、心理的な葛藤や生活上のストレスが原因になっている可能性が高い。それが不眠という形で表れるため、睡眠に不満が向きがちだが、根本原因を解決しなければ、質のよい睡眠も得られない。 「葛藤やストレスを手放して、心の状態をより健やかに保つ努力を続けることで、気がつくと睡眠に注意があまり向かなくなり、自然と眠れるようになるはずです」(同) ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年7月5日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 川野 泰周(かわの・たいしゅう) 林香寺住職、精神科医 RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。1980年横浜市生まれ。2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業。慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。禅修行の後、2014年臨済宗建長寺派林香寺(横浜市)住職。寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたる。『人生がうまくいく人の自己肯定感』(三笠書房)、『「精神科医の禅僧」が教える 心と身体の正しい休め方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。 ---------- ---------- 林 悠(はやし・ゆう) レム睡眠研究者 東京大学理学部卒業。2022年より東京大学大学院理学系研究科教授、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構客員教授を兼務。睡眠を研究し、認知症や精神疾患などに対する予防治療にも挑む。 ----------
林香寺住職、精神科医 川野 泰周、レム睡眠研究者 林 悠、文=向山 勇 図版作成=大橋昭一