就任1年目でパ最速Vを成し遂げたソフトバンク工藤監督は名将か
「ピッチャーに関しては、自分の経験に重ねながら、調子を非常によく見ている、その典型な例が攝津の2軍落ち。自分の経験談を丁寧に話しながら、課題を持たせて下に落とす。摂津にしても、下でやることがわかっているから、モチベーションも落ちずに万全な状態で一軍にあがってきた」 池田氏が指摘するのは、6月13日にエースの攝津に2軍落ちを通告した事例。12試合に投げ4勝5敗、防御率4.10と不調のエースが、故障以外の理由で2軍へ落とされるのは、プロ7年目して初めてだった。工藤監督が自らが不調だったときに何をしたかを話して聞かせ、攝津は苦しい走り込みから、フォーム矯正と、まるでキャンプをやり直した。7月21日のロッテ戦から1軍復帰すると7回無失点で5勝目をつかみ、そこからとんとんと勝ち星を増やした。エースは復調した。 そして工藤監督は、結果論で失敗したことに対して叱責もしないし、文句もつけない。目を光らせているのは、準備ができていたかどうか。 「どんな凄い選手でも打てないこともある。結果は気にすることはない!」 工藤監督は、若手だけでなく、選手会長の松田、キャプテンの内川らがスランプに入ったとき、そう声をかけたという。 とにかく熱心に選手と対話の時間を作った。試合中にも、ベンチ内を忙しく動いて、気づいたことを話すし、移動日練習でピッチャーが数人しか出てこない日にも、工藤監督はグラウンドに顔を出す。ほぼ無休だ。「会話することで選手の長所を引き出したかった」と工藤監督。 池田氏は「監督が、『重要なのは結果ではなく、そこに到る準備』という姿勢を明らかにしているので、選手は、逆にうかうかしていられなくなった。準備を怠らなくなって競争心が生まれ、試合でも結果にはとやかく言われないので、思い切りが出た」と、そのプラス効果を分析した。 就任1年目でのリーグ優勝は史上18人目。 「僕は作戦らしい作戦は何もしていない」と謙遜するが、西武、ダイエー、巨人、横浜と「優勝請負人」として球団を渡り歩きながら、汗と涙を流して得た経験は、間違いなく帝王学に変わった。 まだ名将と呼ぶには、早すぎるのかもしれないが、スポーツ科学が全盛で、理詰めで野球をやってきた若い選手が増え始めた今の時代に必要な名将像を工藤監督が示したことは確か。次なる戦いは、10月14日から始まるクライマックスシリーズのファイナルステージだ。