日経が最終版の宅配エリアを縮小、スクープの載らない紙面に価値はあるのか
13版と14版では、印刷開始時間はどれだけ違うのか。ニューヨークのダウ工業株30種平均株価を例にとってみよう。13版では、同株価は現地時間で朝9時45分のものとなっている。日本時間で、23時45分だから、それから考えるに、印刷開始時間は24時ころである。14版では、NYダウは現地時間で11時、日本時間では深夜1時。だとすると、印刷開始は1時15分ころだ。ちなみに、実質的な原稿の締切時間である印刷開始時間のことを「降版」と呼ぶが、これは社外秘になっている。 たった1時間15分の差。ふだんの紙面では、13版も14版もそれほど内容は変わらないかもしれない。しかし、日本経済新聞は、最終版である14版でのみスクープ記事などの大きな報道をすることがあるのだ。だから同紙の最終版は価値がある。13版になることで、読者はその価値を失うことになるのだ。 それにもかかわらず、最終版の宅配地域を縮小する同社の理由は釈然としない。フィナンシャル・タイムズの買収にともないコスト削減の必要があるのではと聞いてみたが、コスト削減が狙いではなく、買収とも関係がないとし、詳細な配達体制や新聞の編集方針に関する質問には答えられないとしている。
背景には新聞販売店の労務問題も?
いくつかの多摩地域の新聞販売店にも話を聞いてみた。東京都府中市の販売店は「この件に関しては答えられない」とし、調布市の販売店は「新聞を早くほしいというお客様もいる。版を繰り上げることにより、配達時間を早くすることができる」と答えた。 全国紙の地域ごとの「版」や、各地のローカル新聞の情報をまとめている『全国新聞事情』という同人誌がある。新聞の流通に詳しい同人サークル「横浜新聞研究所」が発行しているのだが、その主催者は、「新聞販売店の労務難」の問題を指摘する。 新聞販売店に余裕があれば、多少新聞が店に届くのが遅れても、新聞をスピーディーに配布することは可能だろう。新聞販売店は人手不足のところが多く、求人も多い。一人あたりの配布部数も多くなる。そういった状況が、「日本経済新聞」の多摩地域の最終版配布とりやめの背景にあるというわけだ。 一方で、インターネットが普及している現在、「横浜新聞研究所」の主催者が指摘するように「速報性よりも読み物としての側面を重視している」という側面もあるだろう。たしかに、フィナンシャル・タイムズの買収以降、FT紙からの和訳記事が増え、読み応えは高まっている。 ただ、日本経済新聞社は、東京の周辺部に複数の印刷工場を持ち、より広い地域に最終版を届けるように努力してきた。だから、これまで最終版を配っていた地域、それも都心に通うビジネスマンの多い地域で最終版を配れなくなったということは、明らかにサービスの後退だ。できるだけ広い地域にスクープ記事をはじめとした重要な記事を掲載する最終版を届けるよう努力すべきなのだ。 (ライター・小林拓矢)