スティーブ・ジョブズのような「威圧的・感情的なリーダー」は本当に生産性を高めるのか?
スティーブ・ジョブズは、いわゆる、気難しい人物として知られているかもしれません。 ビル・ゲイツも同じで、特にMicrosoftの創業当時はそうでした。ティム・シュワブが著書『The Bill Gates Problem: Reckoning With the Myth of the Good Billionaire』(ビル・ゲイツの問題:善良な億万長者という神話との決別)で、ゲイツのリーダーシップを「当惑によるマネージメント。従業員を試そうとして、なかには涙を流す者もあった」と表現しています。 Microsoft共同創業者であるポール・アレンは、ゲイツについて聞かれた際に、「脅し」「口頭での個人攻撃」や「いじめ」といった言葉を使っています。 「ゲイツが重点をおいていたのは負の強化であり、『そんなバカな話は初めて聞いたよ』という口癖が有名になった」とシュワブは書いています。
重要なのは「抑制」と「コントロール」
時価総額3兆ドルを超える企業を築くにはそのくらいの激しさが必要だと思われるかもしれません。後知恵バイアスがかかっている時には特にそうでしょう。 また、それを示すような証拠もなくはありません。『Step Up: Lead in Six Moments that Matter』(ステップアップ:重要な6つの場面でリードする)の著者であるヘンリー・エバンスとコルム・フォスターが行なった調査によると、最高のパフォーマンスを発揮する人材・チームは、あらゆる感情を引き出し、表現しているというのです。 エバンズとフォスターによれば、感情が抑制、コントロールされている場合、2つの有用な行動能力を生み出すことができるため、怒りの感情が有効に働くということです。 集中力を高める。怒ると、1つのこと、つまり怒りの対象に集中するものです。気を散らすことはありません。マルチタスクの誘惑に駆られることもありません。目の前にあること以外、目に入らなくなります。この集中力は非常に強力なものです。 自信をもつ。怒るとアドレナリンが放出されて、感覚が高まり、抑制が弱まります。怒りは、少しの量であれば、なにかをはじめるための火付け役となります。 しかし「抑制」と「コントロール」という言葉を忘れないでください。 ジョブズやゲイツは、苛立ち、焦り、怒りの感情を戦略的に用いたのだろうかと疑問に思われるかもしれません。 ゲイツの場合に関しては、そうではなかったでしょう。ゲイツ財団の元従業員の言葉をシュワブが引用しています。 70パーセントの時間で、ほかの人々に対してビルはまったくもって最低な人物でした。あとの30パーセントは、無害で愉快な、スーパー・スマートなオタクでした。 その元従業員によれば、会議では「だれもがビルに注目していました。今日の様子はどうだろうか。なにか悪態を吐いているかも? 物を投げているかも? と気にしていました」ということです。 それが本当なら、そういった怒りの感情の示し方はエバンズとフォスターが「有用」と呼んだものではありません。 ゲイツの暴言や個人に対する言葉の攻撃はマイクロソフトの全社的な生産性を台無しにしていたと、アレンもはっきりと同意しています。