【社説】医師の偏在 是正へ実効性ある対策を
医師が都市部に著しく偏在している。過疎化が進む地域との格差をできる限り小さくする必要がある。 全国の医師数は毎年増え続けている。人口10万人当たりの数は1990年の171・3人に対し、2022年は274・7人となった。 同じ都道府県内でも、病院や診療所が多い県庁所在地や大都市に偏る傾向がある。 厚生労働省が1月に公表した都道府県別の偏在指標によると、福岡県は東京都、京都府に次いで医師が相対的に集中している。一般的な入院治療に対応する圏域(2次医療圏)でみると、福岡県東部の京築医療圏は全国330医療圏の下位に位置する。 診療科にも偏りがある。産婦人科や脳神経外科のように時間外勤務が多くなりがちな専門科は、医師数の増加幅が小さい。地域によっては住民の受診や救急医療に支障を来している。 こうした地域の医療現場は限られた医師の長時間労働によって支えられた面がある。4月から勤務医にも残業規制が適用されたため、いつまでも使命感に頼ることはできなくなった。偏在対策を急がなくてはならない。 政府はいくつかの施策を講じてきた。08年度から大学医学部の定員増に合わせ「地域枠」を設けた。都道府県が学生に奨学金を貸与し、一定期間に医師不足の地域で働けば返還を免除する。 医師が少ない地域で勤務した医師を厚労省が認定する制度も導入した。認定された医師には、地域医療支援病院の管理者になれるなどの特典を付けた。 これらの施策だけでは現状打開に至っていない。政府は偏在を是正するための対策推進本部を設け、総合的な対策パッケージを年内にまとめる方針だ。 最大の焦点は、診療科や勤務地、開業について規制を加えるかどうかである。従来のように医師が自由に選択していては、偏在が深刻になる恐れがあるからだ。 厚労省は、外来診療を担う医師が多い地域で開業を許可制とし、開業の上限を定める案を示している。憲法が保障する職業選択の自由や、既存の開業医との公平性を考慮すると実現には課題が多い。 財務省は医師の地方誘導策として、全国一律の診療報酬の見直しを提案している。医師が多い地域で単価を下げ、不足する地域で引き上げる内容だ。これには日本医師会が強く反発している。 医師の偏在は国民の生命に関わる問題だ。それだけではない。地域の持続可能性にも影響する。 九州には医師が常駐していない山間地、産科医がいない離島がいくつもある。病院の存廃問題もあり、過疎地の医療は危機的だ。 どこに住んでいても、誰もが一定の医療を受けられるように、効果のある偏在対策を速やかに実行してほしい。
西日本新聞