「家族を持つ権利」と「明日ママ」にしないための問題提起 ── HRW報告書
国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は1日、日本の児童養護施設に関する報告書をまとめました。乳児院や児童養護施設といった「社会的養護」で暮らす子どもは約4万人いますが、多くの子どもは親の愛情が一番必要な時期に、親の愛情が得られない状況にあると指摘。HRW日本代表の土井香苗さんは「子どもたちには家庭で育つ権利がある」と話し、家庭的な環境で育てる養子縁組や里親制度を拡大していくよう国や政治家に働きかけていく方針です。
報告書は、子どもは「幸福で愛情と理解がある家庭のような雰囲気のなかで成長すべき」という国際基準(子どもの権利条約)をひきながら、日本の児童養護は、親と子の一対一の関係を築きやすい「里親」ではなく、職員とほかの子どもたちとグループで生活する「施設養育」に偏っていると指摘します。 日本では、保護を必要とする子どものうち、里親に預けられる割合が、ほかの先進国とくらべても著しく低いという数字があります。厚生労働省によると、オーストラリアでは93.5%、アメリカでは77%、隣国の韓国でも43.6%の子どもが里親に預けられているのに対し、日本では12%の子どもしか里親に預けられていません(2010年前後)。 報告書ではこの数字に触れながら、「(施設と里親の)一番の違いは、絶対大人が変わらないところ」という里子だった人の声を紹介。施設では、職員は交代制で、場合によっては人手不足のため一貫して養育できず、きずなや信頼関係を結べないままの環境で育っていると報告しています。また、病院用のベッドや二段ベッドが並ぶ部屋には、子どもたちのプライバシーがないことも問題視しています。 子どもの委託先を決めるのは児童相談所ですが、里子委託が進まない背景として報告書は、(1)社会的養護の中心は施設教育とされていること(2)里親への十分な支援などがないこと(3)児童相談所の職員数と専門性の不足、という3点を挙げているほか、実親が委託先を決めている事態にも触れています。児童相談所に委託する際、実親の同意をとるのが習慣となっているためで、「日本では親の利益が子どもの利益より重要だとみなされる」という施設職員の声を紹介しています。