実燃費とカタログ燃費 「正義のアメリカと陰謀の日本」は正しいのか?
世間を騒がせた三菱自動車やスズキの燃費試験不正問題。あらためて自動車の「燃費」が注目されました。そこでクローズアップされているのが「カタログ燃費」や「実燃費」といった言葉です。しかし、たった一つの実燃費があると信じるのは「幻想」だと、モータージャーナリストの池田直渡氏は指摘します。シミュレーションテストの本来の目的や、アメリカで行われている再現テストの設定の非科学性などと合わせて、池田氏が解説します。 【写真】「CVT」の終わりは日本車の始まりなのか?
科学的に一つの実燃費はあり得るのか?
「カタログ燃費は詐欺だ!」という声が渦巻いている。加えて、「アメリカのカタログ燃費は実燃費に近い。日本のカタログ燃費だけが詐欺なのだ」と続くらしい。どうやらアメリカは正義の国で、日本は汚職官僚と吝嗇(りんしょく)な企業によって消費者が騙されているという構図で見てしまう人が多いらしい。 陰謀論に陥ってしまうのは仕方がないが、科学的な話をしっかり押さえておきたい人のための解説もあるべきなので、今回はそれをテーマとしたい。念のために書いて置くが、不正は全く別の問題だ。ダメなものはダメだ。それとは別に、あくまでもカタログ燃費のあり方についての考察である。 ポイントは3つだ。 (1)実燃費の定義 (2)シミュレーションテストとは何か? (3)実験値と統計的中央値の違い まずは実燃費の定義からだ。そもそも「実燃費と言う確固たる数値がある」とする人は、実燃費データを再現可能な条件で定義できるのだろうか? そこがまずもっておかしい。すでにご存じの通り「ウチのクルマはカタログ燃費より良い燃費を出す」という人がたくさんいる。この人たちは自分が実際に走った経験で言っている。それを「例外だ」と誰がどうやって決めるのだろう。統計学では極大値と極小値は取り除くことになっているが、全てを極大値として扱うには、ケース数が多すぎる。 定義できないなら、それは感情論に過ぎない。そこを定義できないのなら、科学的とはいえない。昔の人が言う「馬鹿の大足、間抜けの小足、ちょうど良いのはボクの足」というヤツだ。これ以上、恣意的な話はない。 つまり科学的な話として扱うなら「誰かが実際に走って記録した数値は全て実燃費」だ。実験データは実燃費の一つである。ややこしいのは、この実燃費はケースバイケースで非常に振れ幅が大きい。諸条件によってリッター5キロにもなれば25キロにもなる。科学的に考えるなら、まずは実燃費という誰が乗っても出るたった一つの答えがあるという考え方を改めないと話が始まらない。