センバツ高校野球 花巻東、猛追及ばず 九回に意地、諦めぬ姿 /岩手
第94回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)は大会第5日の23日、4年ぶり4回目出場の花巻東は1回戦で市和歌山(和歌山)と対戦し、4―5で惜敗した。「岩手から日本一」を目標に挑んだ花巻東ナインは初回に先制したものの、守備が乱れ失点を重ねる苦しい展開となった。九回に猛追し1点差まで迫ったが、悔しい初戦敗退となった。【松本ゆう雅、長沼辰哉、隈元悠太】 最後まで諦めない――。初回に先制して以降、市和歌山のエース米田天翼に押さえ込まれていた打線が、九回に意地を見せた。先頭の7番千葉柚樹が左翼線二塁打で出塁。代打の金拓門が初球をはじき返して二塁適時打を放ち1点を返すと、一塁側のアルプススタンドは沸いた。 応援に駆け付けた父母らがメガホンを高く突き上げて喜び、金の父正門さん(52)は「振ればチャンスがあると思っていた。このままの勢いで追いついてほしい」と逆転に期待を込めた。 さらに犠飛で1点、死球などで好機を広げるとアルプスの熱気は最高潮に。打席には高校通算本塁打数が40本を超える田代旭が入った。「どんな形でもいいから次につなぐ」と低めの球に食らいつき、1点差に追い上げる一打を放った。父大さん(44)は「主将としての執念を感じた」と喜んだ。だが、あと1点が遠かった。 この日、花巻東は守備が乱れ、苦しい展開となった。先発の万谷大輝は立ち上がりは変化球を中心にテンポ良く投球。しかし三回、バント処理の判断ミスなどからピンチを招くと、暴投と適時打などで3失点し勝ち越しを許した。打撃陣が普段の調子を発揮できない中、「この3失点が大きかった」(佐々木洋監督)。 試合後、万谷は悔しさをあらわにしながらも「コースが甘くなり打たれてしまった。キレのある決め球を投げられるよう夏に向けて成長したい」と前を向いた。持ち前の豪快な1本が出なかった佐々木麟太郎も「勝負を決める打者になって戻ってきたい」と次を見据えた。 「日本一」という目標は夏に持ち越しとなった。選手たちは課題の守備を見直し、自慢の強力打線に磨きをかけ、再び甲子園を目指す。 ◇演奏で反撃後押し ○…一塁側アルプススタンドには、ブラスバンド部の約20人が応援に駆けつけた。新型コロナウイルスの影響で一時は甲子園への派遣が危ぶまれたが、聖地での演奏を楽しみに練習を重ねてきた。 休校などで全員で集まっての練習時間を確保することもままならなかった。楽器を自宅に持ち帰ることが難しい部員は、楽譜を見ながら音源を聞いてイメージを膨らませるなど工夫してきた。 春から3年になる部長の田中千紘さんは「音を遠くまで響かせて選手を応援したい」と甲子園入りした。応援曲の練習は1年からしてきたが大舞台での演奏は初めて。九回表の猛追に合わせ、演奏にも力が入った。惜しくも1点差で負けたが、田中さんは「最後まで諦めない野球部の姿に感動した。ありがとうと伝えたい」と話した。 ……………………………………………………………………………………………………… ■ズーム ◇恩師に届いた先制打 花巻東・小沢修左翼手(3年) 夢の舞台で、好機に初打席が回ってきた。初回2死一、二塁、「しっかり振りきっていこう」と直球を捉え、先制打となる右前適時打を放った。「先制点がほしい場面で打ててよかった」と手応えをつかんだ。 「必死に戦いたい」と臨んだ甲子園。小沢にはプレーを見てほしい恩師がいた。奥州市立前沢中時代に野球部の監督だった藤田尚さん(46)。中学2年で肘の手術を決断する際、「高校で活躍するために今受けよう」と背中を押してくれた。「うまくいかなくても一生懸命やりなさい。いずれ結果が付いてくる」という言葉は今も支えになっている。 一方、藤田さんは小沢を「パンチ力があり、とにかくスイングが速かった」と評価する。中学2年で両翼90メートル以上の球場で軽々とスタンドに放り込む姿に驚いたという。当時から自宅で素振り500本をこなす努力家だった。 九回2死一、三塁、安打が出れば同点の場面で打席が回ってきた。高めの直球に詰まらされ打ち取られた。「低めの変化球に対応できなかった」と悔やんだ。地元で観戦した藤田さんは「悔しい思いを持って頑張れと伝えたい。先制打の感動をもう一度夏に味わってほしい」と期待した。【松本ゆう雅】