90’sオルタナティブロックのマイルストーンとなったピクシーズの傑作『ドリトル』
OKMusicで好評連載中の『これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!』のアーカイブス。今週はクリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(以下、CCR)のを紹介する。たった4~5年の活動であったが、CCRはアメリカのロックファンに大きなインパクトを与えた。その衝撃は2019年の今でも続いているのではないだろうか。少なくとも彼らを生んだアメリカではそうだと僕は思う。特にジョン・フォガティのソングライティングは天才的で、アメリカポピュラー音楽のスタンダードとも言える名曲をいくつも送り出している。中でも「雨を見たかい(原題:Have You Ever Seen The Rain)」はアメリカはもちろん日本でもビッグヒットとなり、中年以上の洋楽ファンは今でもカラオケレパートリーの上位に上がっているはず。その「雨を見たかい」を収録しているのが、本作だ。彼らにとって6作目となるこのアルバムは、彼らの代表作であるばかりか、ブルース、カントリー、ロカビリー、R&Bなどに影響を受けながらも独自の感性で再構築、CCRならではのルーツロックを提示している。収められた10曲はどれも珠玉のナンバーで、このアルバムが「雨を見たかい」だけじゃないことがよく分かる傑作である。 ※本稿は2019年に掲載 ニルヴァーナ、パールジャムなど、90年代に入って次々に登場したオルタナティブロックの大物グループがいるが、それらのグループに大きな影響を与えたのがピクシーズであることは、熱心なロックファンなら周知の事実だろう。今回取り上げる本作『ドリトル』は代表作というだけでなく、ロック史に残る名盤として永遠に語り継がれる作品である。
パンクロックとそれ以外のロック
ロックの歴史について書かれた本を読むと、70年代中頃にパンクロックが登場してロック界は大きく変わったとされている。確かにそれは間違いではないのだが、リアルタイムで60年代中頃からロックを聴いてきた人間として補足したいことがある。パンクが現れた時、それ以外のロックは成熟を極めており、大人だけが楽しむ保守的な音楽になっていた。70年代中頃にはハードロックでもプログレでもスタイルを保持することが中心となり、R&Bやロックンロールが登場した50年代のような破壊的インパクトはとっくに消え失せていた。大人になったロックは、もはや若者たちにとってフラストレーションの受け皿とはならなかったのだ。もともとは若年層をターゲットにしたロックではあったが、アーティスト側もリスナー側も歳を取るという事実は当然の帰結である。そこで、エネルギーに満ちあふれた若者の代弁者として登場したのがパンクロックである。パンクロック登場以降は一般リスナーの青年以上はパンク以外のロックしか聴かないし、若者たちはパンクロックしか聴かなくなった。 前置きが長くなったが僕が補足したいのは、ロック界はリスナーの年齢や感性によってパンクとパンク以外の“棲み分け”が整然と行なわれるようになり、“棲み分け”は大人と若者の好きなアーティストがまったく重ならず、広がりがなくなってしまったということである。かつてのロックファンはツェッペリンとCSN&Yを、またはイエスとジョン・デンバーを同じように聴いていたのだが、パンクが登場してからはクラッシュとボズ・スキャッグスを、イーグルスとラモーンズをどちらも聴くことはなくなってしまったのである。