「私が亡くなってもおいしいものを食べてほしい」障害を持つ娘と母の絆をつなげる“いつものトマト鍋”
秋となり、そろそろ鍋が美味しい季節だが、そういえば、よそのお宅ではどんな鍋を作っているんだろう。そんな思いから「名前のない鍋」巡りを始めた筆者が、今回お邪魔するのは、重い障害を持った子供たちや家族のために活動するNPO法人「ゆめのめ」の代表・大高美和さん宅だ。大高さんが作ったのは、嚥下障害を持つ娘も楽しめる「いつものトマト鍋」。娘を想う母の心が隠し味だ。※本稿は、白央篤司『名前のない鍋、きょうの鍋』(光文社)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 母と息子がキッチンに立つ大高家 鍋の具材はそのときどきで自由 台所に入れてもらえば、今夜の鍋の具材がずらりと並んでいた。 「この大根、近所の農家さんの収穫体験でいただいたんです。他に、にんじん、きのこ、鶏肉。ブロッコリー……じゃなくて、名前なんでしたっけね。私、管理栄養士だけど料理は苦手で、食材の名前もすぐ忘れちゃって。管理栄養士だからって料理が得意なわけじゃない、そういう人もいるって書いてくださいね(笑)!」 取材を始めてからというもの、大高美和さんの話には「(笑)」が絶えない。9歳になる息子の湊介君が「ねえ、チーズチーズも入れてよう」とねだってくる。 「はいはい、その前にコンソメ入れて、お鍋かきまわしてよ」 キッチンに立つふたり。湊介君、なかなか手つきが慣れている。 きょうの鍋はトマトの鍋。好みの肉野菜を入れて、コンソメキューブでベースのおつゆにし、カットトマト缶を入れてしばし煮込めば出来上がりだ。 「何回も作ってるんですけど、レシピ覚えられなくて。コンロの前に本を置いてやってるんですよ。水は何カップだっけ……こんなレベルで、ホントすみません(笑)」
お会いしたばかりなのに、どうもそんな気がしない。壁やバリアといったものをまるで感じさせない、話しやすい方だなあ……というのが第一印象。「きょうはキャベツもあるから入れちゃいましょうか」と、鍋の具材はそのときどきで自由のようだ。 使われていた鍋は象印の「グリルなべ」で、鍋にもなれば、ホットプレートとしても使えるもの。 「直火にかけられるのが便利。随分長いこと使っています。もう10年ぐらいかな?」 ● “いつものトマト鍋”に 噛めない娘がにっこり笑う お鍋の具材が煮えてきたら、3点セットの登場となる。キッチンばさみ、煮えた具を細かく刻むチョッパー、さらに細かくすり潰すためのミルサーだ。 大きな具をキッチンばさみでざっくり刻んで、チョッパーに入れてさらに細かくしていく。必要であれば、ミルサーでさらにすり潰す。 この日はさらにブレンダーにもかけて、鍋の具をポタージュ状にされた。葉物野菜が多いと繊維質が多いため、なめらかになりにくいのだ。