我々が住んでいる宇宙空間はじつは「平ら」ではなく「曲がっている」…!「空間を歪めている」存在とは何なのか?
蜃気楼
光は密度が大さいほど遅くなる傾向がある。海面の温度が低いと海面すれすれの空気は冷やされて密度が大きくなるので光速が遅くなる。すると、光の経路が曲がる。しかし、我々にはそんなことはわからず光はまっすぐ来たと思うので、地上にある家が空中に浮かんで見える(なぜ、速度差があると曲がるかは『学び直し高校物理』波動編参照)。 このように光が屈折することで蜃気楼は起きる。物体からあらゆる方向に反射された光のうち我々の目に見えるのはその一部にすぎない。温度差がないとき光は大気中を直進するので、目を物体と直線で結ぶ方向の光だけが目に見える。冷たい空気と暖かい空気が重なりあう境界の狭い範囲で空気の温度が連続的に変化するような場合、そこで光の屈折が起きる。このような層ができるとき、光は温度の低い(=密度の大きい)ほうへ屈折しカーブを描く。 下の図は、上が暖かく下が冷たい空気層で起きた蜃気楼の模式図だ(上位蜃気楼)。上へ向かう光線の一部が屈折して下へ戻り、観察者の目に届く(凸形にカーブした光線、下図上のa-b-gやa-d-f)。これに対して、上位蜃気楼とは反対に、上が冷たく、下が暖かい空気層では光が凹状にカーブするので、実際の風景が下に見える下位蜃気楼が起きる。
逃げ水
上位蜃気楼とは逆のメカニズムで起きる(すなわち下位蜃気楼と同じ)。地面の温度が高いと地面すれすれの空気は熱せられて密度が小さくなるので光速が速くなる。すると、光の経路が凹状に曲がる。しかし、我々にはそんなことはわからず光はまっすぐ来たと思うので、地面の中に物体が見える。 一方、もとの物体からの直接の光も見えるので、地面が鏡になって風景を映しているように見える。これは地面が濡れていて水たまりがあるときに見える現象と同じなので、道路に水たまりがあると感じる。水たまりに近づくと曲がった光は目に入らなくなり、この現象はなくなって代わりに遠方に水たまりが見えるようになる。これが水たまりが遠ざかり「水が逃げた」ように感じられるので「逃げ水」という名前が付いた。 * 【つづき】〈「重力があると光が曲がる」のはなぜ? …「質量がない光」さえ重力で曲げられてしまうメカニズム〉では、光が曲がるメカニズムについて、くわしくみていきます。
田口 善弘(中央大学理工学部教授)