我々が住んでいる宇宙空間はじつは「平ら」ではなく「曲がっている」…!「空間を歪めている」存在とは何なのか?
物理に挫折したあなたに――。 読み物形式で、納得! 感動! 興奮! あきらめるのはまだ早い。 大好評につき5刷となった『学び直し高校物理』では、高校物理の教科書に登場するお馴染みのテーマを題材に、物理法則が導き出された「理由」を考えていきます。 【写真】「質量がない光」さえ重力で曲げられてしまうメカニズム 本記事では力学編から、等速直線運動とは何かについてくわしくみていきます。 ※本記事は田口善弘『学び直し高校物理 挫折者のための超入門』から抜粋・編集したものです。
曲がっていても実はまっすぐ
「等速直線運動」とは、一直線上を一定の速さで進む運動のことをいう。等速直線運動は質点に何も力が働いていないときに生じる運動である。それは直感的には「まっすぐ」飛ぶことを意味している。じゃあ、まっすぐ、とはどういうことだろうか? 「まっすぐはまっすぐであってどういうこともへったくれもない」と思うかもしれない。じゃあ、定規がない場合にまっすぐな線を引く方法は? 答えは簡単である。平面上に2点を置いて紐をピンと張ればいい。言い方を変えれば、2点間の最短距離を進む線が直線だ。ただし、最短距離はいつも直線かというとそうはいかない。地表面で2点間の最短距離は直線ではない。直線だったら地面にもぐってしまう。実際のところ、地表面(=球面)上の2点間を最短距離で進む線は直線じゃなく地球の半径と同じ半径を持つ円(大円)の一部分(円弧)だ。
宇宙空間における「直線」とは
では、宇宙空間で「直線」とはなんだろう。宇宙空間は「平ら」なのか「曲がっている」のか? これはあんまり簡単な話ではない。もし、生物がいて一方は平面、一方は球面に住んでいたとしたら、球面に住んでいるほうは2点間を最短距離で結ぶ線が直線じゃなく大円だということに気づけるだろうか? とてもそうは思えない。「まっすぐ直線を歩いているつもりなのに気づいたら元の位置に戻っていた」という事態が起きて初めて気づくかもしれないが。 我々が住んでいる宇宙は「曲がっている」のか「平ら」なのか。答えは「曲がっている」が正解だ。というか、我々が重力だと思っているものは、実際には空間の歪みに等しい。そして空間を歪めているのは質量やエネルギーの存在である。歪んでいる空間では、質点はまっすぐ飛ばない。むしろ、空間が歪んでいてまっすぐ飛ばないことを「重力が働いていて軌跡が曲げられている」と「解釈」しているというほうが正しい。 空間が歪んでいるのだから、光さえまっすぐには飛ばない。その「曲がり方」がとても少ないので、普通は感知できないだけである。光さえまっすぐ飛ばない、という状況ではそもそも、空間が歪んでいることを認識するのも難しいだろう。 次の図を見てほしい。空間が曲がっていれば光も曲がって進む(図左)。この場合、我々にはまっすぐな空間(図右)が見えるだろう。光が柱に沿って曲がって飛んできたとしても、僕らにはまっすぐな壁(実際は柱)沿いに光が直進してきたようにしか見えない。 これによく似たのが、蜃気楼や逃げ水だ。これらは重力とは全然関係ない理由で光の進路が曲がってしまうために、実際にはありもしないものが見える現象だ。我々は、途中でどんなに光が曲がっていても、目に入ってくる直前の光の方向に物体があるようにしか見えない。 そのため、空中にあるはずのない建物や水面が現れたりする蜃気楼や逃げ水などが起こる。私たちは、蜃気楼や逃げ水が幻にすぎず、現実がそうじゃないと最初から知っているから平然としていられるが、もし、こうした知識がない人たちが蜃気楼や逃げ水を目にしたら、幻想的な風景を見て慌てふためいただろう。