炎で乙姫の絵が浮かび上がる焚火台（末武工業所提供）

　山口県周南市の金属加工メーカーが、平安時代から受け継がれる絵画技法「葦手絵」をデザインに取り入れた焚火台を開発した。老舗企業が誇る匠の技と和の文化が融合した逸品は米国誌で取り上げられ、海外進出も果たした。手がけた職人たちは「海外の人に日本の伝統美を届けたい」と意気込んでいる。（小野悠紀） 【写真】「山口市は日本の素顔を見るのに向いている」…NYタイムズ「旅先52選」推薦のライター

再燃したアウトドアブーム着目

　「職人がこだわり抜き、唯一無二の品に仕上がった」と語るのは、新商品の統括責任者を務める末武工業所の西村雄一さん（54）だ。

　石油化学工場などが集積する「周南コンビナート」を抱える同市は、ものづくりの街でもある。同社の創業は1955年で、主力事業は法人向けのステンレスや鉄製品の加工・販売、ステンレス製造所のプラント設備の補修管理などだ。

　だが、コロナ禍が業界にも影を落とす。創業家3代目の金近右太社長（48）は、「密」も避けられるとして再燃していたアウトドアブームに着目し、2022年、「自分たちの技術を生かして焚火台を作らないか」と社内に呼びかけた。

　一般消費者向けの製品を作るのは初めてで、西村さんら腕利きの職人ら7人が集められた。熱で変形しない鉄板の厚さを見極めたり、強度や燃焼効率を上げる工夫を凝らしたりして、1年がかりで原型ができあがった。苦労したのは畑違いのデザインだ。若者らも手に取るキャンプ用品は、品質だけでは差別化が難しく、商品化は頓挫寸前に陥った。

室内照明やアロマ台にも

　危機を救ったのが、「TOMOKO．」の名で葦手絵師として東京で活躍する同県岩国市出身の篠塚智子さん（35）だった。22年夏には仏・パリのジャパンエキスポにも出展しており、着物姿の女性をモチーフにした作品に目を奪われた西村さんが協力を依頼。「日本の美と技を世界へ」という思いに篠塚さんも共感した。

　篠塚さんは、浦島太郎伝説に登場する乙姫の絵に「竜宮絵巻」という文字を忍ばせた作品など4種類を制作。最新のレーザー加工技術で精巧なデザインを表現し、最後は職人がひとつひとつ手作業で削りあげた。