「電話恐怖症」の若者が急増中? 心療内科医が教える“電話が怖い”理由とは
電話をかけるとき緊張する。かかってきた電話に出るのが怖い……。世の中で「電話恐怖症」と呼ばれる問題を抱えている人が増えています。「電話が怖い」という感情の背景、「恐怖症」と「苦手意識」の差、電話恐怖症になる理由などについて、心療内科医の鈴木裕介先生にお話を伺いました。 自分でできる呼吸法、セラピー、瞑想ほか【メンタルヘルスを整えるアイデアまとめ】(画像)
■ミレニアル世代以降に「電話が怖い」人が増えている背景とは? ――最近、「電話に苦手意識がある」という声を聞く機会が多いように感じます。鈴木先生は、ご自身で開業なさっているクリニックのほか、産業医としても診察されていますが、そういった声が増えているという印象はありますか。 鈴木先生:そうですね。特に20代の方に増えている感覚があります。それは日本だけではなく、欧米でも同様で、「テレフォビア」と呼ばれています。ミレニアル世代(1981年から1996年頃生まれの世代)には、電話をストレスに感じる人が多いというイギリスの調査もあり、20代・30代の実に70%~80%が「電話が鳴ると不安になる」と答えたという結果でした。 特に会社の固定電話を「怖い」と感じる人が多いですね。ミレニアル世代以降は、「誰からかわからない電話を受ける」という経験が上の世代より極端に減るんです。携帯電話・SNSが普及し、発信元がわかる通話しか受けていない。つまり、会社の固定電話で初めて「誰につながるかわからない電話」をすることになる。今までさらされることのなかったストレスによって、恐怖が生まれているのかもしれません。 あとは、チャットやメールがメインの連絡手段になっている中で、「電話は相手の時間を奪うので失礼」というマナーが生まれたこともあるでしょう。「自分は相手の時間を奪っているんだ」という思いがあれば、特に電話をかけることは緊張するでしょう。でもそれって実は思い込みで、メールなら3往復のやりとりが必要なところを、電話なら1回3分で終わるような話題も多い。相手や内容によっては、電話のほうが都合がいい場合もあります。「すべての電話が迷惑なわけではない」と、こちら側で勝手に決めつけず、ケースバイケースだと意識しておくことも大切です。 ――この「電話が怖い」という不安を持つことが、「電話恐怖症」なのでしょうか。 鈴木先生:そのような意味で使っている人も多いと思いますが、ひと言で「怖い」と言っても、単なる「苦手意識」なのか、「恐怖症」レベルなのかでは、話がまったく違います。一般的に「電話恐怖症」と呼ばれている人の中には、医学的に見れば恐怖症ではない人もおそらく多く含まれているでしょう。 医学的に恐怖症とは、「本来そこまで感じる必要はない対象に対して、過剰に不安や恐怖を感じること」です。着信によってパニックや動悸などが起きたり「電話を受けたくないから会社に行きたくない」と思ったり、というような回避の症状があれば、電話恐怖症と言っていいでしょう。 ただし、たとえ恐怖症というレベルでなくても、困っているという事実は変わりません。「病気でもないのに何で自分は電話を怖がってるんだろう」なんて落ち込む必要はない。電話が怖くて不快だったり仕事に支障をきたしていれば、それは「困りごと」ですから。 ■電話でのトラウマ体験による反応で恐怖症になることも ――「電話恐怖症」と「電話への苦手意識」だと、解決策は違うのでしょうか。 鈴木先生:単純な苦手意識の場合は、単純に試行回数を増やすと克服できることがあります。体質的な問題とは違って、大半の「苦手なもの」は、スキルや経験の蓄積によってやわらいでいきます。「こう来たらこう返せばよい」「困ったときはこうすればいい」などのケーススタディを学んでいくうちに、対応できるようになるのです。ものすごく簡単に言うと「慣れ」ですね。 克服できるかもしれないのに、無理だと決めつけてひたすら回避してしまうのはもったいない。そこまで大変な症状が出ているわけでないのであれば、メモを使ったり、マニュアルを読んだりして工夫しながら、粛々と試行回数を重ねていくというプロセスは試してみてよいと思います。 産業医として「電話が苦手」という方の相談を受けてきた経験からも、回数による習熟で怖さが弱まっていく人が多い印象です。複雑な対応でなければ、それなりに対策をしながら100回くらい試行回数を重ねれば、苦手意識というのは無くなることのほうが多いのではないかと思います。 ――「電話が怖い」は、試行回数の問題の場合もあるのですね。では、「電話恐怖症」レベルのものは何が原因となって起きるのでしょうか。 鈴木先生:原因はさまざまですが、「電話恐怖症」レベルの方は電話や通話と衝撃的な体験が結びついている方が多いですね。会社以外の、プライベートの電話も出るのが難しいほどの電話恐怖症の人はこのパターンの方をよくみます。 例えば、大事な人の訃報など、生死と結びつくような突然の連絡を電話で受けたことのある人。病院や警察からの突然の電話がトラウマになってしまい、着信があると激しい反応が出るようになってしまう人もいます。そのほかにもストーカーから電話による加害を受けた経験や、重すぎる悩み事を何度も何度も電話で聞いてしまった経験など、電話という体験が深刻なストレスや恐怖などの不快な情動と結びつくときに、「電話は恐ろしいものだ」という学習が起きてしまうのです。 なので、「電話に出るのが怖いのは、過去の体験のせいかもしれない」と考えて、振り返ってみてもよいですね。もしかしたら原因となるエピソードが見つかるかもしれません。お仕事の電話が怖い人も、プライベートなことに原因がある可能性はあります。もし特定できれば、対策に役立つかもしれません。 ――そのような体験があると、電話すべてが恐ろしくなりそうです。ですが、「仕事の電話だけが怖い」という人も多く見られます。その理由はなんなのでしょうか。 鈴木先生:こちらの原因もさまざまですが、「プライベートよりも仕事のほうが恐ろしい体験と出会う可能性が高い/高そうに感じる」ことが原因ではないでしょうか。プライベートなら回避できますが、仕事だと絶対に出なければいけないというプレッシャーもあります。 そこまで激しい体験がない場合でも、“トラウマ的”なでき事によって電話が恐ろしくなってしまうパターンもとても多いですね。例えば、取引先や上司に電話口で理不尽に怒られたり、詰められるというのも、体験に恐怖が条件づけられるために、広い意味での“トラウマ的”なでき事と呼べるでしょう。 僕は電話恐怖症ではありませんが、電話が怖くなる気持ちはとてもよくわかります。研修医時代、短気な循環器内科の先生に電話するのもされるのも、めちゃくちゃイヤでしたから(笑)。怖い先生にかけたくないけど、患者さんのためだからかけなくては、という気持ちで電話をしていました。 このような「めちゃくちゃイヤ」と「電話恐怖症」をある程度は区別しつつ、対応していきましょう。 ■「電話恐怖症」は専門性の高いプロに頼り、「電話が怖い」場合は呼吸や心拍を遅くする工夫を ――具体的にはどのように対応していくのがよいのでしょうか? 鈴木先生:まず、激しい症状が出る「電話恐怖症」の場合は、最初から専門性の高い医師やカウンセラーに頼るのがいいと思います。特に、トラウマに関連している電話への恐怖は、心理療法で改善できる可能性が高いということは、知っておいてほしいです。 電話に出られないというだけで、仕事の評価が下がってしまう場合もありますし、何より「電話が怖い」みたいな痛みから得られるものってあまりないので、早々にプロにお願いしてしまうほうがいいと思います。人生においては、「喪失」とか「失恋」とか、もっと優先的に向き合ったほうがいい痛みがありますから。 プロにお願いする際は、トラウマ治療や認知行動療法などの心理療法にしっかり取り組んでいる、専門性の高い専門家を選ぶことができれば、薬物療法より心理療法のほうが効果的だと考えています。 ――激しい症状が出ない「電話が怖い」程度の場合は、どうすればいいのでしょうか。 鈴木先生:恐怖などの感情は、呼吸や心拍などの体の情報に引っ張られているので、それらを遅くすることで体感が大きく変わります。例えば、「3秒で吸って7秒で吐く」といった、呼気を長くする呼吸がおすすめです。気持ちを落ち着けられればなんでもいいです。素数を数えるとか、テトリスをするとか、自分の心に合った方法で対処してみましょう。 また、「電話をかける」「電話を受ける」「電話を聞かれる」など、さまざまなパターンに対する怖さがあると思います。次の記事では、それぞれについての解説と、物理的・心理的対策をお話しますので、使えそうなものを試してみてくださいね。 ▶【電話が怖い】症状5パターンの対策法を心療内科医が解説! へ続く 内科医・心療内科医・公認心理師 鈴木裕介 日本医師会認定産業医。「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトに、秋葉原内科saveクリニックを開業。産業医としても活躍している。著書に『心療内科医が教える本当の休み方』(アスコム)『がんばることをやめられない コントロールできない感情と「トラウマ」の関係』(KADOKAWA)等。 イラスト/Osaku 取材・文/東美希 企画・構成/木村美紀(yoi)