「経営していないのに、なぜ経営がわかるの?」 経営学者の回答は
専門知を社会に還元することの難しさ
経営学者が経営できるかという問いについては、成功例もあるし、失敗例もある。なかなか一般論が導けない難題であるように思える。何か統計的な数値を出せと言う方もいらっしゃるだろうが、統計分析に足るサンプルサイズがないから難しい。ただ実は、それは別に問題ではないのかもしれない。なぜなら、学者は「専門知」を生み出すことに専念して、それを基にアドバイスなりをして、経営者がそれに活かせばいいという「役立て方」もあるからである。 経営学に限らず、学者の専門知を社会に還元する発想は普遍的に存在する。建築学の先生なら、工事するとか実際に建築「そのもの」を手掛ける必要はなく、建築に対して知見を提供する。ゴリラの研究者がゴリラである必要もなく、ゴリラに関する知を社会に届けてゴリラの保護や発展に寄与できれば、必要十分だといえよう。 まあつまり、経営学者が経営できるかという問いの立て方がミスリードなのであって、もっとシンプルに考えれば「学者の知を社会に活かす」という点に絞って考えればいいのだ。経営学は専門家だけにとどめるのでなくて、より多くの方に知ってもらう価値があるはずだから、経営できるかとかは置いといて、その知を届けることに専念すればよい。(文中敬称略) 『経営学の技法 ふだん使いの三つの思考』 経営学はいかに社会の役に立ち得るのか。実学とされる経営学は、科学的な正しさと、一般の人へ伝えるためのわかりやすさとの間で壮大な矛盾を抱えている。伝統的なトピックを題材に、あえて素朴な問いをぶつけてみるという手法から、真に実践的な経営学を考え直す。 舟津昌平著/日本経済新聞出版/2420円(税込み)