55歳・創業社長「保険料が経費にできないのは面白くないね」…〈生命保険〉による退職金積立のメリットは消えたのか?【経営者専門FPが解説】
経営者であれば、引退後の将来を見据えた「退職金」の準備に頭を悩ませることもあるでしょう。税制改正により退職金積立における生命保険活用の税金対策効果がなくなったといわれていますが、本当なのでしょうか。本稿では、株式会社FPイノベーションの代表取締役・奥田雅也氏が相談事例を基に、生命保険活用の際に注意すべきポイントについて解説していきます。 【早見表】年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
65歳までには代表権を譲り、悠々自適な老後を過ごしたい
「クライアントである社長が退職金積立を検討したいといっており、希望としては生命保険の提案を求められているが、法人税基本通達が改正になり、生命保険を使った退職金積立はメリットがないように感じる。何か良いアイデアがあれば教えてほしい」 懇意にしている税理士から、上記のようなメールが届き、筆者はこの税理士事務所を訪問しました。クライアントの概要についてヒアリングすると、以下のような内容でした。 〈法人概要〉 業種:製造業 相談者:創業社長(男性) 年齢:55歳 年商:3億円 〈備考〉 ・職人時代に始めたモノづくりの仕事が少しずつ大きくなり、高い技術力を売りに年商3億円の会社に成長した ・息子が後継ぎになるべく数年前から会社に入り、いまでは専務として実務を仕切っている。会社の状況や社長自身の年齢から考えて、将来を見据えての事業承継準備に入っている ・準備の一環として「退職金積立」を始めたい。しかし社長が検討したいと考えている生命保険を使った積立は税制が変わってメリットがなくなったのでは? ・社長は「65歳までには息子の専務に代表権を渡して、自分はほぼ関わらずに何かあれば相談に乗るくらいの立場で悠々自適に暮らしたい」という意向。そのためには、ある程度まとまった退職金を無理のない範囲で貰えれば……と考えている
生命保険による「退職金積立」で注意すべきポイントとは
現状の生命保険を確認すると、国内生保の保障目的の定期保険があるだけで、これでは死亡退職金の原資にはなっても生存退職金の原資にはなりません。 まずは社長の要望を伺い、詳細に検討してみることを伝え、了承をもらいました。この税理士へは、以下の3点を伝えました。 (1)死亡退職のリスクを考えると、生命保険を使って退職金積立を検討すべきだが、ポイントは支払保険料の損金割合ではなく、支払った保険料に対して途中解約した際に払い戻される解約返戻金の割合であること (2)支払った保険料よりも解約時の返戻金が多い状態であることがベストだが、保険商品や保険期間・保険料払込期間や解約時期などの条件によって異なる点に注意が必要。メリットが出せる可能性があるのは外貨や変額保険であり、この場合為替リスクや運用リスクが発生する (3)会計的には「役員退職給与引当金」を活用する必要があること すると、税理士からは一度、社長に会って提案をしてほしいとの依頼を受けました。