綾野剛「映画だから撮れたシーンを見つけてほしい」『カラオケ行こ!』俳優&制作陣に共通したある思いとは
高い演技力に定評のある綾野剛さん。映画『ヤクザと家族 The Family』、ドラマ「オールドルーキー」など、さまざまな役を演じ分けてきました。 【画像】綾野剛さんを見る 実力派俳優の、知られざる苦労話をお聞きしました。
こんなにも優しく、温かい青春映画は初めて
――敬愛していた和山やま先生の『カラオケ行こ! 』の映画化で、主人公のヤクザ・成田狂児を演じて、いかがでしたか? 原作を読んだときは、その面白さ、鋭さの中にあるユニークさに夢中になりましたが、映画ができあがって試写で観たときは、自分でも驚きました。 ――どのようなご感想をお持ちになられたのですか? こんなにも優しくて温かくてたおやかな青春映画はこれまで観たことがありませんでした。最初から最後までかみ合ってないのに、それがすべて優しさ、温かさにつながっている。青春表現の新たな可能性を感じました。「山下監督の新作映画」として、作品を生み出せたのではないかと思います。 ――綾野さんが演じた狂児は、どんな人ですか? 他者に対してフラットな人です。だからこそ中学生に対しても敬意を持つことができ、心の底では聡実くんと関わりたいと思っている一方で、関わってはいけないとも思っています。なぜなら、自分はヤクザだから。その特殊な距離感は、狂児が忘れていた、あるいは体験することができなかった青春の再現でもある。大切に演じました。
象徴的なのは、原作にないあるシーン
――2019年の『ヤクザと家族 The Family』で演じた柴崎組のヤクザ・山本賢治とはまるで異なり、終始抑えたような演技が印象的でした。 狂児は基本的にはずっと20%くらいで生きてきたのではないかと思います。感情が極端に揺さぶられることもないし、歯を食いしばって100%で生きることもなかった。 でも、聡実くんと出会ったことで、それまでモノクロだった狂児の世界に色が生まれ、世界が変わっていく。山下監督は、この作品では“聡実の感情がどう変化していくのか? ”だけを描くことを選択し、僕たちもそれに共感していました。狂児が感情を見せないことを徹底させたのも、幻のような見え方にしたのも、大切な時間でした。 ――狂児の感情を抑えることで、より聡実くんの思いや行動が浮き上がってくることを狙ったのでしょうか。 狂児だけでなく、学校や自宅、聡実くんのまわりの世界は淡々と変わらない。それが聡実くん自身の変化の過程を引き立たせています。聡実くんだけが、シーンを重ねるごとに感情の動きが激しくなっていく。 象徴的なのは、原作にはない「映画を見る部」のシーンです「映画を見る部」の栗山くんは最初から最後までまったく感情の波が変わりません。一方で「映画を見る部」を訪れる聡実くんは、どんどん自分の感情をコントロールできなくなっていく。登場人物やシーンのすべてが、聡実くんの成長と変化を描くものとして健やかに配置されています。