石原さとみの新境地、”ある事件”をモデルに情報社会の悪を描いた衝撃作『ミッシング』
今作にはもう1人の主人公が
主人公は、もちろん石原さとみ演じる沙織里であるし、体を張って演じた石原さとみの演技は新境地ともいえるが、今作にはもう1人の主人公が存在している。それは中村倫也演じる地方テレビ局の砂田である。 私情を殺し、あくまで仕事のひとつとして割り切る部下たちが出世していくなかで、どうしても私情を捨てきれず、感情移入してしまう。内部から”伝えることの大切さ”について奮闘し、闘おうとするものの、上手くいかないのが砂田というキャラクターだ。 ドラマや映画であれば、こういったキャラクターがサクセスストーリー的に大逆転していくのだが、現実社会においては、ただ埋もれてしまう……。 声が届かない縦社会構造を改めて思い知らされるキャラクターであるし、ここは吉田監督の容赦ない部分といえる。 ところが、こういった想いをもった者がメディア内にもいて、変えていこうと奮闘しているということ自体をかすかな希望としてもたせているのは、吉田監督ならではのメディアへのフォローにも感じられた。 また、吉田監督作品のなかでいつも共通しているのは、常に主人公の葛藤として「ある時、こうしていたら~」という罪悪感が強く描かれている点だ。 今作においても、あの時、別の行動をしていれば、時間が少しズレていれば、娘はいなくならなかったかもしれない……。という選択のできない過去の分岐点をどうしても振り返ってしまう心情をより強く表現している。 いくら後悔しても時を戻すことはできないが、それでも考えてしまうのが人間という生き物であり、自分や他人を攻めてしまう要因である。 様々な感情が交差し、その答えを出すのが難しい人間の、絶妙に未知なる部分を常にえぐられている……。 『ミッシング』という作品は、残酷な作品に感じられるかもしれないが、現実社会をそのまま描くと残酷になってしまう。 つまり、オブラートに包んでいない社会の描写こそ、ときにどんなフィクションよりも残酷ということを、改めて思い知らされる作品なのだ。 【ストーリー】 とある街で起きた幼女の失踪事件。母親の沙織里はあらゆる手を尽くすも、見つからないまま3ヶ月が過ぎていた。娘・美羽の帰りを待ち続けながら、少しずつ世間の関心が薄れていくことに焦る沙織里は夫・豊の態度に誠意を感じられず夫婦喧嘩が絶えない。唯一取材を続けてくれる地元テレビ局の記者・砂田を頼る日々だった。そんな中、娘の失踪時に沙織里が推しのアイドルのライブに足を運んでいたことが知られるとネット上では“育児放棄の母”として、誹謗中傷の標的になってしまう。世の中にあふれる欺瞞や好奇の目に晒され続けたことで沙織里の言動は次第に過剰になりいつしかメディアが求める“悲劇の母”を演じてしまうほど心を失くしていく……。 【クレジット】 監督・脚本:吉田恵輔 出演:石原さとみ、青木崇高、森優作、有田麗未、小野花梨、小松和重、細川岳、カトウシンスケ、山本直寛、柳憂怜、美保純、中村倫也ほか 製作幹事:WOWOW 企画:スターサンズ 制作プロダクション:SS工房 配給:ワーナー・ブラザース映画 公式サイト:missing-movie.jp (C)2024「missing」Film Partners 5月17日(金) 全国公開
バフィー吉川