「身体の不自由な夫と暮らしたい」 結婚13年でも在留資格もらえないフィリピン人妻と日本人夫の絆
●修三さんが「大きな事故」に遭った
3回目に収容されたとき、マリアさんはこのままでは在留資格は望めないと帰国を考えていた。 いったん帰国して1年でなんとか特別入国許可をもらえれば、今度こそ夫婦一緒に暮らせると思い、帰国する旨を職員に伝えていた。 職員は了承したものの、その後何カ月も収容は続いて、マリアさんが業を煮やしていたときに、修三さんの娘と孫が面会にやってきて「フィリピンに帰らないでほしい」と告げた。 というのも、修三さんが職場で大きな事故に遭って、脊髄を損傷するほどの大きなケガを負ったというのだ。マリアさんは衝撃を受けた。 結局、帰国することはなく、2年3カ月もの長い収容を終えて解放されたマリアさんは現在、修三さんの食事や入浴、トイレの介助をしている。 修三さんは、薬を飲んでも身体の痛みが和らぐこともなく、二人とも夜眠ることができないでいる。
●修三さんを置いてフィリピンに戻ることなどできない
仮放免手続きの日は、決まって夫婦で東京入管までやって来る。 再び収容されたくないから、一人で部屋に放っておくことはできないからと、常に二人は離れないが、車いすの修三さんとそれを押していくマリアさんが入管まで行くのは決して容易ではない。 マリアさんは「今までさんざん面倒見てくれた人なのに、ケガをした夫を放ってかえることなどできない」と言う。 ある夜、寝ているマリアさんを起こさないように修三さんは一人でトイレに行こうとしたが、バランスを崩し転倒してしまい、鎖骨を折ってしまった。 ギプスをして1カ月外に出ることはなかった。とてもじゃないが、修三さんを一人置いてフィリピンに戻ることなどできない。
●弁護士は「マリアさんと修三さんは名実ともに夫婦です」
さらに入管に追い打ちをかけられることになる。 3カ月に1度だったマリアさんの仮放免手続きが、1カ月に1度にされて、職員からは「覚悟はしておいてほしい」と収容を仄めかされた。 マリアさんを担当する伊藤しのぶ弁護士は「マリアさんと修三さんは名実ともに夫婦です。夫婦として一緒にこれからも日本で生活することが保障されるべきなのに、その保護が不十分と言わざるを得ない」と話す。 伊藤弁護士によると、マリアさんは、国に対して在留資格を求める訴訟を起こしている。 修三さんの夢は、在留資格が出たあとにマリアさんをシンガポール旅行に連れていくことだ。 「昔、仕事で行ったことがあるから、案内してあげることができる」 いつ何時、収容や強制送還によって引き離されるかわからない二人は、怯えながらも支え合って暮らしている。 こんな夫婦をどうしてバラバラにすることができるだろうか。在留資格を出すことはそんなにも難しいことなのだろうか。