中村憲剛が感じた“オニさん”の凄みと人間性。鬼木達監督の下で心に刻まれた2試合と言葉
最も印象深いオニさんの言葉
オニさんの言葉で最も印象深いのは優勝争いをしている際にかけられた「自分たちから崩れない」というフレーズです。優勝争いというと、勝ち続けなくてはいけない、勝ち続けたチームが優勝するというイメージでした。それも間違いではないですが、オニさんは「他との我慢比べで負けない」という言い方をしたんです。 それこそ一個一個、自分たちの試合にベクトルを向け、フォーカスする。先を見すぎず、一喜一憂しない。負けても連敗をしない、次はこぼさないなど、自分たちから大崩れしないことで相手にプレッシャーをかけるという考え方はすごく勉強になりました。 それまでのフロンターレはどちらかと言うと、大事な試合を落とすと、引きずる傾向にあったんです。でも、負けても必要以上に落ち込まない、自分たちから崩れない、一喜一憂しないで戦い続けることの重要性は、自分の引き出しに貴重な学びとして入っています。 言うなれば、勝ち続けようというロマンのある戦い方ではなく、自分たちから崩れないというリアリスティックな部分。自分たちが崩れなければ、相手が絶対に崩れてくると、オニさんは言い切ったんです。それは鹿島で学んだ部分でもあったのでしょう。 オニさんの言葉は結果も伴って僕の血肉になっています。やっぱり勝つというこだわりに関しては、僕が指導を受けた監督のなかで随一でした。そして圧倒的に人を見ている。毎日選手がいなくなるまでグランドに残っていたからこそ、そこに裏付けされたアプローチが理にかなったものになり、選手も厚い信頼を置けるわけです。 ここまで、改めてオニさんとの時間を振り返らさせていただきましたが、20年を超えた付き合いなので、正直ここでは書ききれません。オニさんとともにプレーできたこと、ともに優勝できたこと、本当に嬉しかったですし、30歳を超えてからも成長させてもらえたこと、オニさんだからこそ40歳までプレーすることができたこと、感謝しかありません。 本当にありがとうございました。 お疲れ様はまだ言いません。残りの試合もオニさんらしく戦ってほしいと思います。 構成●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)