高齢者を狙う「ピンポイント強盗」“コスパ”重視の犯罪手口が広がる背景 根本的な「防犯対策」はあるのか?
“危ない”住居に暮らしている高齢者は対策が必要
以前は、犯罪者は車の運転や自分の足で歩き回ったりしながら、ターゲットにする住居を物色していた。しかし、現在では、Googleのストリートビューなどを活用することで、事前に現地に行くことなく「下見」を済ませる犯罪者が増えている。 つまり、「入りやすく見えにくい」住居が空き巣に発見され、侵入される可能性は以前よりも高まっている。この条件に該当する住居に住んでいる高齢者やその家族は、対策を検討すべきだ。 たとえば、警備会社「アルソック」の公式サイトでは、防犯対策の具体例として、「見守りカメラの設置」「窓に防犯フィルムを貼る」「警備会社や介護サービス会社が実施している見守りサービスの利用」が挙げられている。これらの参照も有効だろう。
近年は「ピンポイント強盗」が問題になっている
小宮教授によると、あらかじめ多額の金品がある家を特定し、狙いを定めて行う「ピンポイント強盗」という手口が昨年から問題になっているという。 ピンポイント強盗は、特殊詐欺と同じようにまずは不特定多数に電話をかけ、世間話などを通じて「家に多額の現金や、宝石・時計などの高価な物品がある」などの情報を聞き出す。また、アンケート調査を装って資産を聞き出す場合もある。 特殊詐欺は「何百軒も電話をかけたのに誰一人詐欺に引っかからなかった」という場合も多く、犯罪者からすれば「コスパ」が悪い。一方で、ピンポイント強盗は情報さえ聞き出せれば実行に移せるため「コスパ」がよい。このため、以前は特殊詐欺を行っていた犯罪者グループが、ピンポイント強盗へと犯行の手口を移行させている。 また、高齢者は自慢話をしやすい傾向があるため、犯罪者が狙っている現金や金品などの情報もつい漏らしてしまいがちだという。 「電話口だけでなく、居酒屋や喫茶店など公共の場での雑談や世間話も犯罪者に聞かれている可能性があるため、気をつけてください」(小宮教授)
「これは復讐だ」若者が高齢者への犯罪を“正当化”する
犯罪者のなかには10代や20代の若者も多い。そして、若者が高齢者を狙う背景には「世代間格差」という現代的な状況も影響しているという見方もある。 犯罪学の考え方に「中和理論」がある。多くの場合、犯罪者にも「犯罪は悪いことだ」と考える良心や罪の意識が備わっている。したがって、犯罪を実行するためには、犯罪を正当化する「理屈」によって罪の意識を“中和”する、という考え方だ。 小宮教授は、近年の若者の間には「自分たちが貧しいのは年長者のせいだ」などと高齢者に対する敵意が広まっており、そこから「高齢者の現金を奪うことは正当な復讐だ」「自分たちが奪われてきたものを取り戻すだけだ」などの「理屈」が持ち出されている、と語る。 「最近では、SNSや動画サイトなどでも『高齢者ヘイト』を煽る投稿が流行していますが、それが高齢者に対する犯罪に結び付いている可能性もあるのです。 また、犯罪グループのボスが『社会が悪くなっているのは老人のせいだ』などと若者を説得して、実行犯に仕立て上げる場合もあります」(小宮教授) 犯罪者たちの悪意が集まっている状況では、高齢者やその家族が個々人で防犯対策を行っても限界がある。 小宮教授は、地域住民が落書きなどの軽微な乱れを放置しないことが地域全体の安全性を高めるとする「割れ窓理論」に基づき、犯罪が起こりやすい場所を重点的にパトロールする「ホットスポット・パトロール」など、地域や社会による対策も不可欠だと語った。
弁護士JP編集部