美容室全壊から1年 「恩送り」晴れ着に思い込め 1年遅れの成人式に美容師奮闘
昨年1月の能登半島地震で仕事場の美容室と実家を失った石川県珠洲(すず)市の岸田孝子さん(53)は、公費解体を終えた敷地に仮設店舗を構えた。11日には地震で1年延期された市の成人式「二十歳(はたち)のつどい」が開かれ、全壊した美容室からボランティアが探し出した振り袖を着付ける。「1年遅れでようやく迎える成人式。心を込めたい」と当日を待つ。 1年前の元日、珠洲市宝立(ほうりゅう)町鵜飼地区にある「北沢美容室」から100キロ超離れた金沢市に滞在中、地震が襲った。珠洲市は最大震度6強を観測し、木造2階建ての店舗兼実家は全壊。閉じ込められた父は近所の人に助け出され、母は自力で脱出して無事だった。 滋賀県草津市の美容室で修業をした後、28歳でUターン。同じく美容師だった母とともに店を切り盛りし、すでに20年以上がたつ。 地震後、苦境を知った修業時代の同僚たちから、はさみやドライヤーなどの用具が届いた。近くの銭湯の施設を借り、ボランティアで被災者のカットを始めた。 先の見えない避難生活を送る被災者に前向きになってもらおうと、はさみを握る日々。常連客との再会を喜び、地震後の苦労を語り合った。笑顔を取り戻す姿を見て、心の底から「いい仕事に就いた」と実感した。 一方、昨年の地震は1月7日に予定されていた成人式の直前に起きた。着付けのために預かっていた振り袖や帯などは、地震で押しつぶされた店の下敷きになっていた。 それぞれ祖母が見立てたり、母が着たりした思い入れのある晴れ着。約1カ月後、ボランティアに店を探してもらった。汚れでクリーニングしても対応できない一部の晴れ着は新調せざるを得なかったが、持ち主やレンタル会社に何とか返却することができた。 今月11日、1年遅れで開催される成人式では、昨年も晴れ着を預かった人に加え、地震で廃業した別の美容室の顧客も引き継ぎ、男女10人の着付けを担当する。 1人ずつ打ち合わせをし、帯の結び方や髪形を決定。年末年始は、手早く着付けができるように着物に襟を縫い付け、髪を編み込む練習を繰り返した。「1年で一番忙しいけれど、せっかくの晴れの日だから」と準備に余念がなかった。