牛襲い続けた「怪物ヒグマ」OSO18…“肉の味”教えたのは人か 進む巨大化と求められる対策
急所の一つ、頸椎(けいつい)を狙って撃ったが、かすめた程度だったのかも知れない。ヒグマは首を2、3回振っていた。すぐに眉間にもう1発放った。 「致命傷かと思い少し近づくと手足が動いていたため、念のため3発目を刈り草で隠れていた頭部に撃ち、止めを刺した」(同) 静かな最期だった。駆除から3週間後、このヒグマがOSO18であったことがDNA検査で判明する。
「変だな」 捕獲作戦を指揮したリーダーが語る異質さ
NPO「南知床・ヒグマ情報センター」の前理事長・藤本靖さん(63)は、北海道からの依頼を受け「OSO18特別対策班」のリーダーとして560日間にわたり、捕獲作戦を指揮した。 ヒグマの行動調査などに取り組んできた藤本さんは「OSO18が牛を襲った現場付近を見ると、普通のクマがよく食べる植物がたくさんあったのですが、食べた形跡が一切なかった。仲間たちと『変だよな』と話していた」とその異質さを振り返る。 「普通のクマなら一発でかかる」というはちみつと酒を混ぜた特製の餌を置いた檻を仕掛けても、反応しなかったという。
草食から肉食に 変化したヒグマの食性
このOSO18の行動を裏付けるようなデータが、クマの過去2000年分の食性を調査した結果から明らかになっている。 福井県立大の松林順准教授が北海道東部と南部のクマ337体分の骨を使い行った調査によると、今のヒグマはフキやセリ、ヤマブドウなどを食べる“草食”が大半だが、1920年以前は肉食傾向が強かったという。 明治政府が北海道開拓を本格化。ダム建設などでサケの遡上が減ったことや乱獲などでエゾシカの個体数が減少し、草食に傾いたとみている。
北海道東部では、クマの食べ物に占めるシカや昆虫などの陸中動物の割合が1920年以前は64%。1996年以降は8%に大幅に減少していた。サケの割合も19%から8%までに減少していて、わずか200年でクマの食性が大きく変わった。 藤本さんによると、OSO18の行動範囲内にハンターが撃ったシカが捨てられていた。「そこでシカを食べ続けて”肉食”になり、手に入らないときは、周辺の牧場で牛を襲うようになったのではないか。ヒグマにとっては、苦労せずに餌が手に入る『森のレストラン』状態」と推測する。
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