「働かない社員」を簡単にクビにしてはいけない! 昭和の炭鉱労働者に学ぶ、日本人が失った真の「生産性」とは
労働者の心を慰める存在だった
かつて、福岡県の筑豊(ちくほう)エリアに炭鉱が多く存在した。 「北部九州を縦貫する遠賀川流域は、かつて我が国最大の産炭地だった筑豊炭田と呼ばれ、膨大な量の石炭を供給することで日本の近代化と戦後復興に大きな貢献を果たした。しかし、1960年代の石炭産業の斜陽化にともなって筑豊地域の炭鉱は次々と閉山し、昭和51年(1976)の貝島大之浦露天掘炭砿の閉山によって、筑豊炭田は終焉を迎えた」(飯塚市の資料より) 【画像】えっ…! これが自衛官の「年収」です(計13枚) 当時、たくさんあった炭鉱会社で「スカブラ」と呼ばれている労働者がいた。語源は ・仕事が好かんとぶらぶらしている ・スカしてぶらぶらしている ・スカッとしている などと定かではない。 彼らは、炭鉱に降りても皆と同じように作業をすることなく、その代わりに、労働者たちを慰めるようなことをしていた。 ・面白い話をして皆を笑わせたり ・お茶を出していたわったり ・たまには現場の見回り人を呼び止めてくぎ付けにしたり することで、労働者を監視から逃した。「効率化」「合理化」の現代において、このような人をどのように感じるだろうか。
排除で生産性が下がった
この話には続きがある。 あるとき、景気が悪くなってリストラをしなければならなくなった。経営者たちは話し合って 「何もしていないスカブラからクビにしよう」 ということになった。「無駄」な人材を排除できたのだから、さぞかし効率が上がったのではと思うかもしれないが、実際はその逆だった。 今まで同じ時間でやれていた仕事が、全然できなくなってしまい、その上、残った炭鉱労働者たちの 「人間関係もギスギス」 したものになったそうである。中国の荘子にある「無用の用」のように、 「一見意味がないように感じるもの」 が、実は重要な役割を担っていたのかもしれない。
モチベーションを高める「仕事」をしていた
これが事実だとすれば、どうしてこのような現象が起こるのだろう。働く人の成果は、 「能力」×「モチベーション」 で生まれると筆者(曽和利光、人事コンサルタント)は考えている。どれだけ能力を持っていたとしても、まったくやる気がなければ成果は出ないし、逆に少しくらい能力が足りなかったとしてもやる気が最大まで高まった状態では 「火事場のばか力」 が出て期待を超える成果を出すこともある。「スカブラ」社員は、能力開発はしないだろうから、労働者たちのモチベーションを高める「仕事」を実はしていたのではないか。 実際、「スカブラ」社員がいなくなったら、皆口々に 「炭鉱が面白くなくなった」 「働きに出る意味がない」 などといっていたそうである。