日本語が全くできなかった留学生が誰もが認める主将になるまで 柳ヶ浦のベノイットが貫いた真摯な姿勢【ウインターカップ】
SoftBank ウインターカップ2024
バスケットボールの第77回全国高校選手権「SoftBank ウインターカップ2024」は24日、東京体育館で大会2日目が行われ、男子1回戦では4年ぶり4回目の出場となる柳ヶ浦(大分)が2年連続2回目出場の京都精華学園に68-73で敗れた。主将のボディアン・ブーバカー・ベノイット(3年)はセネガルからの留学生。負傷交代で最後までコートに立つことはできなかったが、リーダーの姿勢を貫いた。(取材・文=THE ANSWER編集部・鉾久 真大) 【動画】負傷退場でも…日本語でチームを鼓舞する柳ヶ浦の主将ベノイットの姿 左腕を三角巾で吊るしながらも、ベノイットは最後まで懸命に声を張り続けた。試合終了のブザーが鳴ると、真っ先に向かったのは相手ベンチ。敵将と握手を交わし、首を垂れた。チームメートを先導して観客にも「ありがとうございました!」と一礼。中村誠監督は「もう出られないとわかっていても腐らず、ベンチで誰よりも声を出してチームを鼓舞してくれた。本当に頭が下がる」と感謝した。 58-55で迎えた第4クォーター残り6分56秒。ベンチスタートながら11得点、8リバウンドと奮闘していたベノイットに悲劇が訪れた。ブロックに跳んだ勢いで転倒。「アーッ!」という悲鳴が響き渡った。左手首を押さえながら悶絶。しばらく立ち上がることができなかった。「いるといないとでは大違い」と指揮官が評する大黒柱。治療を終えてベンチに戻った時にはもう残り2分を切っていた。 W主将を務める山根遼太郎(3年)も「彼がチームの中心人物であるのは間違いない」と断言。「今日の試合でもベンチが暗くなっている雰囲気の中、彼が積極的に声を出してくれた」と称える。そんな精神的支柱の離脱。「ベンチが暗くなるのは非常に良くない」と奮起し、代わりにチームを鼓舞した。だが、あと一歩及ばず敗戦。ベノイットは治療のため、試合後の取材エリアには現れなかった。
日本語が全く話せないところから誰もが認めるキャプテンへ
柳ヶ浦に入学するため、3年前にセネガルから来日。当時は全く日本語が話せず、中村監督が最初に教えた言葉は「水」だった。それが今では難しい話も聞き取れるように。コミュニケーションはほぼ日本語でこなしている。1年生の頃はキャプテンを任せることになるとは想像もしていなかったという指揮官。「こいつかな」と任命を決めたのは、昨年のウインターカップ予選直後の練習だった。 新チームとして最初の日。中村監督が見たのは、黙々と練習をこなすベノイットの姿だった。「留学生は彼1人しかいなかったので、もう40分間フル出場。誰よりも一番疲れているはずなのに、2時間の練習を1個もメニューを休まずに全部こなしていた」。真摯な姿勢はチームメートも保護者も認めるところ。主将就任時に「どうして?」「外国人なのに?」という疑問の声は一切上がらなかった。 任命を伝える時、中村監督は「僕でいいんですか?」という言葉が返ってくると予想していた。しかし、ベノイットは「僕がやります」と力強く言い切った。覚悟を持って臨んだ1年。「留学生がキャプテンということで注目もされてきたが、彼は本当にどこに出しても恥ずかしくない男。見られているという意識を常に持って行動してくれた」と指揮官は称える。 「日本では礼に始まり、礼に終わるから。どんなに悔しくてもやりなさい」。主将就任時に中村監督から伝えられた教えを、ベノイットは最後まで徹底した。「最後も本当は悔しさの方が上回っていたと思う。痛いし、悔しいし、というのがあったと思うが、本当に最後まで顔を上げてやってくれた。立派だった」。試合終了の時、指揮官は主将と握手を交わした。期待に応えたリーダーを労うように。
THE ANSWER編集部・鉾久 真大 / Masahiro Muku