<上海だより>悲惨な労働環境の“闇”──激戦、中国宅配業界の配達員事情
中国の配達員の過酷な待遇
当然、中国は約14億人という圧倒的な人口を有しており、その成長速度を支えるだけの労働力には困らないということも言えるでしょう。しかし、市場規模以上に、日本の宅配業者を超える悲惨な労働環境という闇を、中国の宅配業界は抱えています。その労働は主に外地からの出稼ぎ労働者の安い人件費によって支えられているのです。 例えば上海市の宅配ドライバーの求人をインターネットで見てみると、給与の表記は概ね3000元(約4万8000円)から8000元(約12万8000円)となっています。インターネット上の書き込みでは、配達1件で1元、月に3000件を配達してやっと3000元の収入、という書き込みもありましたが、つまり1日100件配達して1ヶ月休みなしの労働ということになります。 また、中国の報道では、100万人以上と言われる配達員のうち90%は労働契約が結ばれておらず、基本的な社会保障もついていない、とも言われています。今の上海の生活物価は東京を超えているものも多く、これでは基本的な生活が送れるかさえ不安な給与水準と言えます。しかし、それ以上に給与が低い地方出身者にとっては、それに耐えるしかない、という状況もあるのです。
質の高い配達員は出前アプリ業界へ
そのような状況の中、近年では出前アプリの成長も著しく、宅配便よりも出前の配達員の方が待遇もいいため、人材の流出が問題になっているようです。筆者は出前のアプリも多用しますが、受け取る際に「請慢用:チンマンヨン(お召し上がれ、のような意味合い)」と一言添える配達員もおり、中には「今回は場所がすぐ見つけられずすみません、次回からはすぐ届けますので」という気の利いた一言を添える配達員までいるなど、これまでの宅配便の横暴さに慣れていた筆者としては、むしろ恐縮してしまうほどです。 おそらく、出前アプリの場合は一人の配達員が1オーダーの責任を持つため、顧客の採点評価が給与に直接影響することも関係しているでしょう。こうしたところから、マナーが悪い配達員は出前配達員に採用されず宅配便業界に残っている、という事態が生じていると考えられるかもしれません。 とは言うものの、前述の宅配便の過酷な労働条件を考えると、1件1件の配送を丁寧に、とは言えないのも現実です。日本と中国は一括りにはできませんが、日本でもかつてのようなご近所づきあいがあれば、一時的に預かってもらうこともできるでしょうし、いくら職場とはいえ荷物の受け取り程度には会社側も寛容になるなど、受け取る私たちの方で改善できることも多く、むしろその方が根本的な解決につながるのではないか、中国からそのように感じる宅配業界問題です。