陰謀論者の常套句「メディアは操られている」が隠す”不都合な事実”
日本も例外ではない、陰謀論やフェイクニュースの影響。背景にある実態を知ることで、われわれは適切なメディアリテラシーを身につけなければならない。日本大学危機管理学部教授、同大学院危機管理学研究科教授の福田充氏が解説する。 ※本稿では、『Voice』2024年4月号「フェイクと陰謀論が民主主義を破壊する」より抜粋した内容の前編をお届けします。
陰謀論はプロパガンダに利用される
「トランプ大統領は闇の政府(ディープステート)と戦う救世主=光の戦士」であるという陰謀論を信奉した「Qアノン」や「プラウド・ボーイズ」のメンバーたちがトランプ大統領の「議会を目指せ」というメッセージに煽動されて起こした事件が、2021年1月6日の米連邦議会襲撃事件である。 共和党のトランプ候補と民主党のバイデン候補が激突した大統領選挙において、「大規模な不正があった」とするフェイクニュースが数多くネット、SNS上で拡散された。その証拠とされた画像、動画も捏造されたフェイク画像であった。 陰謀論とは「大事件や社会問題の背後には隠された裏の権力による謀略がある」とする信念に基づいたナラティブのことであるといえる。アメリカでは大事件が起きるたびに、「真実は隠されている」「この事件の背後には闇の権力の存在がある」という態度によってさまざまな陰謀論が生み出されてきた。 戦後の事例だけを見ても、ケネディ大統領暗殺事件やジョン・レノン暗殺事件といった政治的、文化的リーダーの死の背後には「CIA陰謀説」が生み出され、アメリカ同時多発テロ事件においても「自作自演説」がまことしやかに流行した。 旅客機によるワールドトレードセンターへの激突は、「戦争屋=軍産複合体」が儲けるために引き起こした自作自演であるという陰謀論である。 トランプ前大統領は、こうしたフェイクニュースや陰謀論を意図的にプロパガンダ(政治的宣伝)に利用した政治家であり、それによって米連邦議会襲撃事件という民主主義の破壊行為が引き起こされたことは負の歴史として語り継がねばならない。フェイクニュースや陰謀論は、政治的にそれだけの大きな力をもっていることを肝に銘じなくてはならない。