もうすぐ賃金上昇に向かう?「最低賃金1,500円」の生み出す効果とは
企業は徹底的に競争させ、労働者は保護するのが本来の姿
企業というのは本来、競争環境で切磋琢磨するものであり、時代に追い付けず、十分な賃金を払えない企業は市場から退出してもらうのが筋である。一方を労働者というのは、基本的に時間で雇われる存在であり、法律において保護すべき対象と言える。 企業の自発的な新陳代謝を促すと同時に、それによって労働者に悪影響が及ばないよう、最大限、支援するのが政府本来の役割と言える。 最低賃金1,500円を実施すれば、一定割合の企業の経営が困難になると予想される。これを解決するベストな手法は複数企業の統合だろう。日本では中小企業の多くが大企業の下請け的立場に甘んじており、大企業から過度な値引き要求を受けるなど、古い商慣行がまかり通っている。 大企業による過度な買いたたきによって中小企業の賃金が上がらないという側面があり、これに対抗できる手段はやはり規模のメリットということになる。規模の小さい企業を統合すれば、労働者を解雇せずに、規模のメリットを追求できるようになり、生産性が向上して賃金上昇が期待できる。 たとえば、社員50人、役員数5人の企業Aと、社員70人、役員数6人の企業Bが統合した場合、社員120人の企業Cとなる。統合後、社員数は変わらないものの、役員数は単純に2社を足し合わせた11人とはならず、何名かの役員には降格してもらうことになる。だが、こうした統合によって企業規模が大きくなり、取引先に対する価格交渉力は格段に増す。 諸外国でも同じメカニズムが働いている。例えば米国の人口あたりの企業数は日本と比較すると少なく、体力の乏しい企業は積極的に合併を行い、価格交渉力をつけるのが当たり前となっている。 最低賃金の引き上げは、これまで放置されてきた中小企業の再編を促す結果をもたらすだろう。 政府の役割は、統合に際して一方的な首切りなどが発生しないよう、労働者を最大限、保護することである。企業の再編と労働者の保護を両立できれば、企業規模の拡大が進み、やがて全体の賃金も上がっていく。与野党すべてが同じような公約を掲げたということは、賃金の引き上げは国民的コンセンサスと言える。企業側の対応は待ったなしだ。
執筆:経済評論家 加谷 珪一